ENo.0060　Lupth

彼女の一日は同居（ペットではないので同居と彼女と犬も認識している）している犬に起こされて始まる。

同じ寝室で寝ているのだが彼女は寝ている最中に頭痛が酷くなると暴れることがあるので、犬が跳ね飛ばされては大変だと寝床は別々だ。
床に用意された犬用ベッドで寝ていた犬は大体6時から6時半の間に自然に起床し、彼女を起こすために警戒しつつ慎重にベッドに上がる。

頭痛に苛まれ浅い睡眠と覚醒を繰り返し時折呻きながら眠る汗塗れの彼女の顔を犬はベロベロと無遠慮に舐め回して起こす。
起きた途端に吐いてしまうこともあるのだが今朝は比較的調子が良かったらしい。普段より若干険しい顔で起き上がり寝起き特有の掠れた声でおはようと犬に挨拶をし、犬は元気よく一声鳴いてそれに返す。
起き上がった彼女が大きく伸びをすると包まっていたタオルケットが体から滑り落ち、彼女の裸体が晒される。汗で張り付いて気持ちが悪いとの理由で彼女は就寝時に何も着ない。彼女と犬だけの生活なので誰も気にしないし注意もしないのだった。


伸びをした後少しだけぼうっとしていたが、犬が元気よく跳ねてベッドから飛び降りると彼女も後に続いて降りた。まずは汗を吸ったシーツとタオルケットをベッドから剥ぎ取ると寝室を出てまっすぐ脱衣所へと向かう。
設置してある洗濯機にそれらを放り込むと電源は入れずにまずはシャワーを済ませる。今回は大丈夫だったが犬が吐瀉物を浴びてしまった場合は一緒に入る。今回は脱衣所で留守番だ。

シャワーから上がり使用したタオルを洗濯機に放り込むとようやく稼働させる。適当に髪を乾かしてノースリーブの肌着と下着を身に着け着古してヨレヨレになったジャージをはくと犬と共にリビングダイニングへと向かう。
普段はゼリータイプの栄養食で朝食を済ませてしまうのだが、今日は吐かなかったこともあって若干調子が良いのでドライフルーツとシリアルをドサッと器に盛り冷たい水で溶いたスキムミルクをぶっかけて食べるようだ。普通はドッグフードを食べるところだが犬も同じ物を食している。

食後は彼女がまず歯を磨きその後彼女が犬の歯を磨いてやり、丁度終わった洗濯物を干せば朝の準備行動は終了だ。


日によってこの後の行動は違うが、今日は掃除をするようだ。調子の良い日にやらねばあっという間に汚れてしまう。主に跳ね回る犬と、犬から飛ぶ毛のせいで。

自立型の掃除機を起動し、彼女は先行して壁をモップのような物で撫でて壁のホコリを落としてその後を追いかけるように掃除機が通る。脱衣所、寝室、リビングダイニングと周り廊下も隅々まで回って滞りなく終わらせる。
暫くぶりの掃除であれば拭き掃除もするのだがそこまで期間は空いていなかったので今日はこれで終了だ。

ちなみにその間犬はといえば、邪魔にならないように後ろをついて歩いていた。


「予想より早く済んだな。……狼、軽く運動でもするか」

「ひゃん！」


リビングダイニングの隅に用意されたランニングマシンで犬が走り、その横で彼女は筋トレに励んでいる。
何かおかしいが一人と一匹はこれが当たり前なので何も思っていない。

仲良く昼前まで運動に励むと軽く濡らしたタオルで体を清め、昼食だ。
ひとっ走り彼女が買い出しに行って調達してきた肉系の料理を平らげる。ちなみに普段であれば犬だけは冷凍や真空の肉料理を食べることが多いが、彼女は食事どころではないので朝同様栄養食だ。


朝と同じく仲良く歯磨きをしてから食休みを挟み、午後からは機体の整備と改造の時間だ。こればかりはどんなに調子が悪くとも毎日手を付けている。
週の前半は整備、後半に改造が基本だが、パーツの搬入状況によって前後することも多い。

前日までに整備を終わらせていたので今日は改造に着手する。
彼女は一言も発さず真剣に取り組んでいるので、犬も騒がず真剣な面持ちで彼女を見守っていた。拠点内ではいついかなる時も一緒なのだ。


夕食ギリギリまで作業を行い、作業で汚れてしまったのでまっすぐシャワーへ向かう。
汚れてはいないが夜は犬も一緒に入っている。

シャワーを終わらせると夕食だ。
朝や昼に比べてかなり控えめの量かつさっぱりとした物を食べる。本当に寝るだけなので十分なのだ。

会話（犬は鳴くだけだが）したり、ボール等を投げて犬と遊んだり、身支度を整えたりと就寝までゆっくりと過ごし、時間になると連れ立って寝室に向かう。
途中脱衣所に寄って彼女は身につけている物を全て脱いで洗濯物に放り込み、新しいシーツとタオルケットを抱える。脱ぐのは何故か忘れないが眠いとたまにシーツとタオルケットを持っていくのを忘れることがある。今回は大丈夫だったが。

寝室に到着すると犬は早々にベッドにダイブし、彼女は雑にシーツを敷いてタオルケットに包まる。どうせ寝相でぐちゃぐちゃになるとわかっているからだ。


「おやすみ、狼」

「ひゃん！」


犬はすぐにぐっすりと眠り、彼女は暫く眠れず、眠れても浅くたまに目を覚ましながら朝まで微睡む。




彼女の調子が良い時の、一人と一匹の一日が終わった。

1LDKの居住空間と簡易ガレージを内包した移動型拠点。
少々角ばったドーム型をしている。



全ての窓や出入り口には過剰なロックが施されているようだ。