ENo.0060　Lupth

昼食時。
いつもならば保存食かシリアル等で適当に済ませてしまうのだが、本日は彼女を悩ませる頭痛が少しだけ落ち着いていたのでファストフード店でテイクアウトしてきた物を食べることとなっていた。

ペット同伴可の店も探せば多分あるだろう。
そんなことは時間の無駄だと彼女と犬の意見が一致したので、周囲を気にしなくていい拠点で食べることとなったのだ。


「ひゃいん！」

「留守番させて悪かったな。……こら、待て、せめてテーブルまで行かせてくれ」


尻尾を千切れんばかりに振って出迎えた犬が手に持った紙袋に飛びつこうとしているのをいつもよりも若干柔らかい呆れ混じりの声音で制しつつ彼女はリビングダイニングまで向かう。

途中の洗面所できちんと手洗い等を済ませ席に着くと当然のように犬が対面の椅子に飛び乗り、更にテーブルに上がる。
いつものことなので彼女は咎めない。


「コールスロー、で良かったな？……犬の姿をしているお前に人の食べ物をやるのは、やはり気が引けるな」

「ひゃん！」


そんなことはどうでもいいとばかりに目の前に置かれたコールスローの蓋を引っ掻く犬には何を言っても無駄と悟ったのか、ため息を吐き蓋を開けてやる。

早速貪り始める犬に周りを汚さないよう注意をしてから彼女は灰皿で煙草を潰し革手袋を外して置くと、紙袋から紙包装に包まれたハンバーガーを取り出した。

分厚いハンバーガーを紙包装に包んだままぎゅっぎゅと押し潰す。
ある程度馴染んだところで包装を開くとパティとチーズを交互に数段重ね、申し訳程度に萎れたレタス、そしてたっぷりのアリオリソースを挟んだ、これでもかとカロリーを詰め込んだハンバーガーが顔を出す。どろりと表面を流れるチーズとソースが暴力的だ。
ある程度潰れてもまだまだ分厚いのだが彼女は十分とばかりに包装を剥き、右側の前髪は軽く払うに留め左側の前髪は耳にかけてから思いっきり大口で齧りついた。

当然口の端や頬にソースや油が付着する。もぐもぐと咀嚼しつつ頬に付いた分は指でぐいと拭い、口の端は合間にぺろりと舐めた。
ある程度で咀嚼をやめてごくりと喉を鳴らして飲み込んでから行儀悪く指のソースを舐め取ると、再び大口で齧りつく。


十分ほどで食べ終えると思い出したように紙袋を漁り、冷めてしなっとなったポテトを取り出す。皮付きでくし切り型だ。

コールスローを食べ終えて容器をベロベロと舐めていた犬がきゅん！っと鳴いて顔を上げ、尻尾をぐるんぐるんと丸を描くように振る。

「……いや、さすがにコールスローを完食してポテトも、は駄目だ。お前、今は体が小さいことを忘れているだろう」

「きゅん…」


ポテトを遠ざけられ犬は悲しげに尻尾を下げたが彼女の言うことに納得したのか再びコールスローの容器をペロペロと舐め始める。

彼女もそれを見ながらポテトを一つ二つとつまむ。


「……ドリンクも頼むべきだったな」


塩気と口内のパサつきに顔を顰めるが無いものは仕方がないと諦め、常備している小さめのペットボトル入りミネラルウォーターを手に取り、喉を鳴らして飲み干した。


昼食を終えて片付けをした後、食べすぎて動く気になれない一人とただ眠いだけの一匹は仲良く昼寝（彼女は寝そべるだけだが）を堪能するのだった。

1LDKの居住空間と簡易ガレージを内包した移動型拠点。
少々角ばったドーム型をしている。



全ての窓や出入り口には過剰なロックが施されているようだ。