ENo.0109　エンセイル・フェノメノン

『洋服のモニターの話が回ってきてさ』
「へえ」
『そっちの所在地を送っておきました』
「待てや」
そんなやり取りの直後、荷物の到着を報せる報知音が鳴り響いた。
「手遅れかあ……」
『品質は保証するからさ、お願い！』
「はいはーい……っと」
モニタに映る、両手を合わせて拝むミソラの映像を後目に、荷物の受け取りへ赴く。
受け取った荷物は、普段のそれに比べるととても軽く（まあ普段は本が多いので当然であるが）、戻ってくるまでにさして時間はかからなかった。

「うわ、なにこれ」
荷物を開けたエンセイルは露骨に嫌そうな声を上げた。そこに入っていたのは、彼女の趣味とはかけはなれたメイド服。触ってみれば、さらさらと心地よいなで心地とともに、しっかりと丈夫さが感じ取れる絶妙な生地。品質は予想していたそれより遥かに良い。良い、のだが。
「これはこれでなんかなあ……逆にプレッシャーがなあ……」
いくら趣味ではないとはいえ、流石にこうも高そうな服を渡されては無下にするのも忍びなく、かといってはいそうですかと簡単に着てしまうには失礼な気がして、どっちつかずで頭が痛い。

「……」
『……』
つけっぱなしのモニタにはわくわくと待ち続けているミソラの姿。こちらからの映像は届いていないはずなのに、目を爛々と輝かせている。
試しに衣擦れの音を響かせてみれば、目の輝きがさらに強くなった。年頃のオトコノコじゃないんだよ。
「はー……」
いまいち気は進まないが、ミソラに借りがないといえば嘘になるし、着るだけ着てやれば満足するだろう……と楽観的に腹をくくって、着替えを開始する。
袖を通せば肌触りはよいし、通気性も悪くない。なまじ着心地が良いばかりに、好みの服であればなあ……と気が重くなる。運命を呪うとまではいかないまでも、巡り合わせの悪さを嘆かずにはいられない。

とはいえ、いつまでも嫌な顔をしてばかりもいられない。モノは良いのだし、写るときくらいはせめて真顔でいねばならぬ。
手袋よし、眼鏡よし、ヘッドドレスよし――確認を済ませ、カメラを設置し、パシャリ。
「送ったぞ」
『やったーー！』
歓喜の声を背に受けながら、そそくさと着替える。はいはい終わり終わり。私の仕事終わり。お疲れさんっしたー。
『いやしかし嬉しいなあ、嬢はこういう服嫌がるからなあ。お金も入るし珍しいもの見れたし、一挙両得ってやつだよ』
「よっしゃなんか奢れ」
『はいよー。あ、レポもよろしく』
「げ」

エンセイルが全部を終わらせたのは出撃の少し前だった。


参考：https://twitter.com/RepensMitsuba/status/1048825977915097088

エンセイルの友人であるミソラが店主を務めている古書店

……の、名前を借りたもの
(突っ込まれて渋々説明文を書き足した跡がある)