ENo.0047　『Unterlegene』

──客間。

「はあー疲れた…ほれ　奢りだ
　泥水からはだいぶ遠い味はしてるんで俺はまあ気に入ってる」

弧を描いてヤシロの手に向けて放られた缶コーヒーは熱かった。
一度手の中で跳ね、慌てて手に収めつつ慎重にテーブルへ置いた。

テーブルを挟んで反対側のソファにメーレスが缶コーヒーを開けながら座る。

「こうして話すのって初めてですかね」

「…かもしれないな
　5年前も…そうだな　まだ人もいたし互いを認識してなかったか
　まさか2人がここに残り続けていたとは思いもしなかったが」

「そりゃそうでしょうね　あの人が
　…して俺たちは　破滅に向かってるんですかね」

「……？
　ああ　例のメッセージとやらか　くだらない
　むしろ平穏を取り戻したい側だろう　アンタ等は」

「……そう　なんだけれどなあ…はは
　施設の改装が再開されるまでの資金調達のつもりだったんですよ　最初は
　なんか…変なことに　また巻き込まれてしまったのかな　と
　だいぶ軽い気持ちでライダーになってしまった手前、
　世界のその…重大さ？に　あまり実感も沸いてないんで…
　使命と領域拡散精神遊離環があるーなんて　言われてもって感じなんですよね」

缶コーヒーのふちを指でゆっくりなぞる。

「…言われても　なんですよ　俺だってただこの残像領域で…この場所で
　ただ普通になんでもない一日を過ごしたかったんですよ
　それを…それを遺跡が出てきたから　だからできなくなったんで　それで…
　どうしてあんなメッセージを受け取らなければいけなかったんでしょうね」

今までより格段に体調は良くてもなお疲れた顔をあげる。
対面のメーレスと目が合うと乾いた笑いをしながらなぞっていた指を離した。

「…かと言ってヤシロは対して何かしようってもならないんだろ？」

「そりゃ…まあ　変なことしてこれ以上リリアナにも負担をかけたくないし…
　僚機先に変な影響を与える訳にもいかないと思ってるので」

「そうだな」

メーレスは持っていた缶コーヒーを数度揺らした後、呷る。
空き缶をテーブルに置くと軽快な音が返ってきた。

「ああ　少なくとも今はどうしようもないんだろうな　俺たちは
　…ところで　コーヒーもう冷めてるが…開けてすらいないのか」

「コーヒー　俺飲めないんですよ」

―5年前、とあるハイドラライダーが拠点としていたガレージ。
現在はリリアナがガレージの所有権を持ち、ヤシロと相談した結果…宿泊施設に改装予定だった。
改装中の所へ遺跡出現のニュース、
途端に建設業者が別の仕事を捻じ込まれて改装は中止されちぐはぐな拠点になってしまった。

半分がハイドラを整備するガレージ。
半分が宿泊施設の客間や家具も何もない部屋がいくつか。
サボり…もとい休憩所として使われている様だ。