ENo.0187　タリス・シエルタ

ガレージの中に佇む大きなヒトガタ、自分の愛機を前に工具を持って挑む。
金属が噛み合い、回す音。独特の油の匂い。
何度繰り返したかわからない、そんな光景と感覚。


一通りの整備を終え、操縦棺に乗り込んでレバーを引いていく。
ミストエンジンの駆動音、水が奔り、パーツ一つ一つを巡る音。
懐から取り出した煙草を一つ咥え、火をつけながらその音に耳を傾けて。

｢……調子が良いようで何よりですね、オラクル｣

今日の【鳴き声】は機嫌が良い、煙を吐きながらそんな感想を零す。
ただの駆動音と言ってしまえばそれまでなのだが、
どうにもそこから機嫌を汲み取るのが癖になっている。


その【鳴き声】を耳にしながら目を閉じ、煙を吐いてふと思う。
そういえばそろそろ、次の仕事が来る頃合いだと。


──次は、聞こえるだろうか。




操縦棺に座ったまま、暫しそうして時間を潰す。
変わらず巡る水音を遮る様に、サイレンが鳴った。

応える様に、ゆるりと目を開いて伸びを一つ。
置いてあったヘルメットを被りながら、目の前のパネルに触れる。


　　『Welcome to HCS』


見慣れた画面の隅に置かれた、銀色のカードを一つ見やってから。


｢では、行きましょうかオラクル｣




｢我らが、在るべき場所へ｣





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//擦れた文字で【Talice Sielta】と書かれた日記帳が落ちている//

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俺があそこを出る時にセンセイが言っていた事は、今でも覚えている。


『貴方の勘を頼りなさい、それを信じて生きて行きなさい』


彼女はたしか、言い聞かせる様にそんな事を言っていた。


彼女が何を知っていたのか俺には分からないが、
ピリピリとした気配、俺が感じる嫌な予感は今のところよく当たる。
ならば、それを避けて生きなさいと、センセイはそう言っていたのだろう。


その言葉のお陰か、不思議と生きていく事は出来ている。
今は満足の行く物でも無いが、いつかは、いつかはきっと。


憧れた、ハイドラに触れてみたい。

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