ENo.0351　パイ・クアッド・ラズベリィ

「アクティベイト、ボクスド・キャンディ」



甘くはない言葉だった。

苦い思い出が蘇るから。



＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊



Sweet_To_Youカンパニー7号棟、第6ガレージ。

リボンをかけられた赤いプレゼントボックスがそこにあった。

車体長5.55m、全幅4.44m、全高3.33m、全重量22.2t、そんな箱が1台。

88mm祝砲を搭載した、元・廃棄寸前のボロ・ウォーハイドラだ。

そして現・STUカンパニー1stアニバーサリー祝賀セレモニー専用中戦車型ハイドラ『ボクスド・キャンディ』。



私はあの日、これに乗って、ハイドラライダー認定試験に臨んだ。

STU再興のために。



＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊



「まだ怖いですか、お嬢」

「当たり前ですわ、ゼノ」



『ボクスド・キャンディ』の内部の簡易座席の上で小さな身体を更に小さくして蹲る。

足下に宝石のようなものが無数に散らばり、眼前には空っぽのコンソールが鎮座していた。

水の音がする。耳の奥に響く。

宝石のような『ドロップ』を幾つか拾い上げてコンソールへ嵌め込んでいく。積み木のように。



「私には他の手段などございませんの。……メインの操縦は……」

「乗る前にも言いましたが。お嬢。我は戦闘用に構築されたAIではありません」



「わかっています。制御はします。引き金は、引いてください」

「……」



「初陣。行きますわよ」