ENo.0064　タカムラ＝カミツ

act.01
　＜ザイカ＞。
　翼ある蛇の姿をした、篁のウォーハイドラ。
　灰銀をした機体の下には細かく霧を送るパイプが張り巡らされ、蛇の胴体のしなやかさを描いている。その背中とも呼べる部分には四つの部品。どうやら排気孔だと思われたそれはブレードを出すための部品のようで、青い粒子を生み出していた。
　尻尾の部分にも同じような部品があり、こちらはスピアがあるらしいが今のところは動作しない。
（……いつか付けてやるべきだな）
　頭の部分には操縦棺が設置されており、粒子なのか青い目の部分にはどうやらレーダーがあるらしい。まだ開けていないので実際のことはよくわからない。
　これが、篁の手によって作られたのかは本人にもわからない。
　そもそも、目が覚めたらそこに存在していたものであり、そして自分が登録されていた。記憶が曖昧な篁にとってはそれがすべてであり、この＜ザイカ＞に思い出せる少女の声がするAIが載せられていることが、篁がこのウォーハイドラに乗る簡単な理由だ。
　単純で、わかりやすい理由。
　どちらにしろ自分で整備もできるし、開けてはいないが何がどこにあるかもわかる。自分で作っているかいないかなど別にして、とりあえず、この＜ザイカ＞にとって自分が必要な操縦士であり整備士であることは間違いがないのだ。
　前回の戦闘による軽微な被害をきっちりと整備し終われば、篁は小さく息を吐いた。耳に届くのは穏やかな少女の声だ。＜ザイカ＞を見上げ、ゆるり、笑う。
「俺が墜ちたら、ユカも傷つくからな。気を付けないと」
　とはいえ、この世界は戦場だ。篁の力がなければあっさりと墜ちてしまうのはどうあがいても目に見えている。使い方がわかるにしても、正しく動かせるかどうか、敵の鉛弾を回避、もしくは被害を軽微にできるかどうかはまた別の話なのだから。
　応えるように＜ザイカ＞の目の光がゆっくりと明滅した。まるで意思があるようだ。とはいえユカがいるのだから、ある意味で意思があると言うのも間違いではないのだろうか。篁は首をかしげる。
　この世界にはたくさんのウォーハイドラがいる。最近知り合った二人（？）のも例に漏れずそうだろう。空を飛ぶ、自分とは似たような戦いかたをする二人組。
「……おまえが褒められると嬉しいよ」
　自分で言葉にしながらひどく単純だなと自嘲する。篁にとって、＜ザイカ＞を褒められることはユカを褒められることとほぼ同義だ。とはいえ、篁以外にユカの声は聞こえていないようだからユカのことを話すまでもないのだが。
　ゆるり、明滅する青。
　ぽんぽんと労うように機体に触れる。自分がやっておきながら、まるで人間に対するような動きをしているなとただ思った。
「……さて、明日もよろしくな、ユカ」