ENo.0295　リゼット・フォーレ

1285クレジット。
それがあたしの、ライダーとして初めて得た報酬だった。

霧のせいで、広いのか狭いのかもよくわからないような戦場。
霧を吹き出す機体。電磁アックスが空を切る音。撃ち落とした敵機の、悲鳴に似た破砕音。
ハイドラに振り回されるようにして、目まぐるしく初陣は終わった。

初見の楽譜をぽいと渡されて、あっという間にバンドの中に放り込まれた気分だった。
ついていくのが精一杯、何を考える余裕もない。
それでもハイドラは走り、跳び、武器を振るった。
あたしが操作しているというよりは、いっそどこか、自動的にすら感じられる挙動。
あたしが歌わなくても、歌えなくても、バンドが勝手に音楽を進めていくように。

ママも最初はこんな感じだった？
心のなかで呼びかけてみる。

ハイドラとあたしの、切れ切れの意思疎通。
あたしたちはまだ繋がっていない。同じ音楽を奏でるには、練習が足りない。
簡易パーツだらけのあたしのハイドラは、ほんとうの意味では、まだまだ “あたしのノクターン” ではない。

今週のパーツカタログは高額商品ばかりだ。稼いだクレジットなんて一発で吹き飛んでしまう。
だけどこれは、ハイドラを自分のものにしていくためには、たぶん、必要な出費なのだろう。
カタログとにらめっこしながら、めぼしいパーツにチェックを入れていく。

それから少し考える。
次の戦場から僚機になる、インセイリー、という名の男の人のことを。