ENo.0233　ガク=ワンショット

「ということで、僚機のパイロットと会う日が決まったわ」

「僚機のパイロットと会う事自体初耳なんだが」

「そりゃそうよ。今初めて言ったんだから」

ガクは先週の事を思い出す。
『知らなくて良いことは知らないほうがスマートに事が進む』
確かにそのような旨の言葉をリピアに伝えたはずだった。

僚機のパイロットに関しても同じことが言える。
今は僚機でも、次回がそうとは限らない。

全ては霧の中なのである。

「でも、僚機と全く打ち合わせも無しに戦場に出るわけにはいかないでしょう？」

「それでも、直接顔を合わせる必要は無いようにも思う」

「別に直接顔を合わせようが、合わせまいが変わらないんじゃないの？どちらにしろ長く戦場で付き合うことになるんだし」

「そうなのか？」

「そりゃそうよ。片腕の無い機体の僚機を申し出る人よ。そんな変人、大勢いるとは思わないわ」

「なるほど」

確かにリピアの言う通り。
長い付き合いになるという事だ。
どちらかが死なない限りは。


ー・・・


「あんたがガクか」

その言葉にガクは手のひらを挙げて答える。
目の前には金髪の男。多分ガクより幾つか若い。
目つきが随分鋭い気がするが、出会って数秒で彼を何か怒らせてしまったのだろうか、とガクは少し心配になる。

「ガク=ワンショット。宜しく頼むよ、マヒロ」

マヒロはガクの言葉に一つ頷いた。
あまり、無駄なお喋りをするつもりは無いらしい。
ガクもそれは大いに望むところだった。

仕事はスマートに。

早速、ガクとマヒロは打ち合わせに入る。
といっても、今回は実際の顔合わせが目的であり、話し合い事態は
事前に打ち合わせたことの確認だった。

リピアからマヒロの機体のデータも貰っている。
実際の機体は目の前にある。
ガクはマヒロのハイドラを見上げた。
重多脚の装甲型。
『タランチュラ』

ガクとは随分対象的な機体である。
片腕の軽ハイドラ。
多脚の重ハイドラ。

マヒロも同じようにガクの機体を見上げる。
そして、ガクに向かいこう尋ねた。

「左からの攻撃には気を付けたほうがいいか」

なるほど。確かに僚機をやるなら気になるのはそこだろう。
ガクは答えた。

「そうしてくれると助かる。何しろ見た通り片腕が無いんでね」

ガクは説明を続ける。ロスト・ワンが敵機から攻撃を受ける場合、圧倒的に左側からの攻撃が多い。当たり前である。腕が無い分対応に遅れる左側から攻めたほうが有利になるのだから当然だ。

「逆に言えば、相手の攻撃方向はかなり絞られるということだ。ほとんど左側からの攻撃だと分かれば、それはそれでこちらにも対応の仕方がある。何しろ」

ガクはマヒロのほうを見て、笑いかける。

「俺の機体では左側への対応が難しくても、僚機の君ならそこまででもない」

そういうわけで俺は左腕を外してる。そう言ってガクは口を閉じる。
マヒロは少し考えた素振りを見せて、わかった、と頷いた。

片腕の無い理由に納得したかどうかはわからないが、マヒロはそれ以上聞いてくることは無かった。

別段興味も無いのかもしれない。
まあ、確かに片腕の無い理由などどうでもよいのかもしれない。

戦場に出れば、結果はわかる。

打ち合わせが終わり、二人は出撃の時を待つ。

ガクはハイドラに乗り込み、ただ静かに息をしていた。
「なんでタランチュラなんだろな」
そんな呑気な事を考えながら。

残像領域のある場所。
ある都市のうちのひとつ、霧都市。

都市のはずれ、その中にひとつ、霧の中でぼんやりと明かりが灯っている建物が見える。

霧と混じる工房の煙。
ここは、ダガー工房。
ハイドラのためのダガーを造るための人々が集う場所。
硬質ダガーに魅せられた人々が集う場所。

今日もダガーの職人、技術者、お客、全然関係ない人。
いろいろな人物がいろいろな目的で集まっている。

その様子を工房の片隅で、
無口なバーテンが笑顔で見ている。


※説明
・ダガーユニオン
・【訓練】格闘*5　【購入】経験値+1
・雰囲気ユニオン
・片隅にショットバー