ENo.0206　モニカ・フランクリン

　ハイドラライダーになってから知ったことだけど、任務の連絡はメール一本でぽいっと来る。便利で手軽な世の中って感じだし、割と使い捨てって感じもすごい。
　こういう連絡先を持ってない人はどうするんだろって思うけどそれはそれで別の手段があるんだろう。
　次回の敵予想とパーツリストをにらめっこしながら、キリトさんの言葉を思い出す。

『そ……そこまで火力をつぎ込まなくても、いい』

　というのが、この前の戦いのあとで、私に感想を求められたキリトさんのコメントでして。
　攻めどころだ！　と思ったしスキを見つけた！　ってテンションもあがったし、もう他に動く敵影も見当たらなかったから、持てる火器火力を全力でフル稼働させて全力で敵機撃墜させたんだけど、それはすごくうまく決まって気持ちよかったんだけど、割と思ったより派手なことをやらかしていたらしい。

「やりすぎってことなのかなー」

　穴だらけのぼこぼこになった相手のウォーハイドラは完全に沈黙していた。ていうか、させたんだけど。ちょっと遅れて駆けつけた味方機が射撃体勢に入ったもののどうしたもんかみたいな反応してたっぽいのはちょっと見えたけど。なんかごめんって感じだった。直接謝りには行かなかったけど。バカにしてんのかって感じだし。
　でも、敵は敵だ。命の取り合いをしてるってことくらい最初に言われたし分かってる。私はあいつらを殺そうとしているし、あいつらは私を私たちを殺そうとしている。殺すことに躍起になっているわけではないかもしれないけど、少なくとも死んでもいいと思ってるし、そうなっても仕方ないと思ってる。
　なら、できることは念入りにした方がいい、と思う。中途半端が一番怖い。反撃が来る。自分を殺そうとした相手のことを殺したくならないはずがない。殺してでも生き残ろうとする。だから、殺されたくないなら、そうならないようにしないとって。
　でもまあ冷静に考えたらそこまでしなくてもっていうか最初の一発で完全に動かなくなってたような気もするけど。武器もただじゃないしなー。そういうことかな。整備費もったいないもんね。

　前々回のときは一回も被弾しなかった、っていうか、そもそもあんまり狙われなかったけど、今回は流石に食らっちゃったので整備とかもうちょっと真面目にしなきゃいけない感じだった。特に漏出のアラートがうるさかったエンジンを念入りに見る。
　ウォーハイドラのパーツ、最初は全然分からなかったけど、いざ見てみるとなんとなくああこんな感じなんだな、っていうのが分かってくる。大きいぶんむしろ分かりやすいみたいなとこはある。このエンジンも最初に支給された簡単なものを使い続けてるって感じだし、いっその事いいやつに取っ替えちゃった方がいいかもしれない。
　どうしたもんかな。次回の任務の予定をもう一度確認する。

　性能評価試験。
　新型量産兵器の性能を見たい。指定された部隊に襲撃をかけてくれ。向こうのテストパイロットの心配はするな……死亡保険はかけてある。

　死亡保険はかけてあるって。そういう問題なのかって思うけど、あっちにも似たようなの行ってるんだろうなぁ。嫌になる。仕方ないし、どうしようもないし、言われなくても心配なんてしないけど。
　お兄ちゃんもこういう戦いを強いられたんだろう。お兄ちゃん、優しかったから、嫌だったかもなぁ。戻ってきてくれてよかったのに。そうすれば死ぬこともなかっただろうし。なんて、結局今こうして戦ってる私が言えたことじゃないけど、だって今の私と違ってお兄ちゃんは待ってる人もいた。
　っていうか、私が待ってた。
　お兄ちゃんが辛い思いして戦って、そのお金で生かされてる私が待ってた。

「…………」

　あいつの気まぐれで端末ごと壊されちゃったから、お兄ちゃんとのメールは残ってない。
　今のは新しいやつ。中古だけど。まっさらで、あんまりやり取りする相手もいない。
　ただの連絡先に過ぎないこれが、いつか、私の訃報をも連れて行くのだろうか。