ENo.0295　リゼット・フォーレ

企業間闘争、ジャンク漁り。割り振られてくるライダーの仕事は選べもしない。
口座を行き来するクレジットがまた減って、爪を噛む。
今週のアセンブルはあまり変えずにいこうと思う。

この仕事は難しい、と痛感する。

戦場でもマーケットでも、バランス感覚を失ったらあっという間に破綻してしまう。
カタログに載るパーツの値段は徐々に上がっていく。性能の良いパーツは当然高い。
報酬も少しずつ上がってはいるけれども、被弾すればそれも瞬きの間に吹っ飛んでいく。
ノクターンはさほど装甲が厚くないから、なおさら。

比べて、インセイリーのブライトネイルは戦場に合わせていつも重装甲だ。
あんなに重装甲なのに、機動力だってきちんと確保されている。
これが年季の違いってやつだろうか。
ママが現役だったころにもライダーだったって話だもの。一体いくつなんだろう、彼。

あんまり信用するなって言う割に、僚機になることにはなんにも言わなかったママ。
戦場での働きは確かってこと？

“ブルイヤール”のカウンターで肘をついて珈琲を啜る。

分不相応な場所にいるのかもしれない、と少しだけ思う。
憧れだけで戦場に出るのは、馬鹿のやることなのかも。

でも、ノクターンはもう、あたしのハイドラだ。
ノクターンを歌わせてやれるのはあたしだけ。
エンジンの音、駆動する機体、空を切り叩きつけられる電磁アックス。

あたしはこの仕事が好きになれると思う。というか、好きになりつつあると思う。
今はまだ、ハイドラに振り回されているような状態でも、この先きっとうまくやれるようになる。
歌だってそうだった。
あたしはまだまだやれるはず。きっと。

そう言い聞かせて、席を立つ。

ガレージ街の片隅に立つ小さな店。

飴色のカウンターはいつ見ても閑古鳥、マスターも留守がち。
キープしたボトルで勝手に一杯。珈琲豆は自分で挽く。
そんな店だが、金銭のトラブルは意外に少ない。
が、酔漢たちの殴り合いは起きないでもない。

酔漢が管を巻くのに、紅色の髪の少女が付き合ってやっている。