ENo.0349　ラキア・パラミダス

要塞攻略戦が成功に終わり、ひと段落するかと思いきや、霧の戦場は日に日により過酷さを増してきている。
ハイドラ大隊のどこかの部隊がドゥルガーを含む敵部隊と遭遇し、戦闘の末に全滅したという報告もあった。

「ドゥルガーには……18の腕と、18の神器があったそうですよ。2倍です、2倍。だから何だって？　アハハ……」

新しい仲介人の女が、そう言って笑っていたのを思い出した。
あの女はきっとこうなるということを知っていたのだろう。油断したどこかの間抜けな傭兵が命を落とすだろうと想像して、ほくそ笑んでいたのだ。
ノラ。無残に殺されてしまった彼女のほうが１００倍マシだった。メフィルクライアという女はとても信用できない。

我々は、私は、この地では所詮傭兵に過ぎないのだ。単なる、駒のひとつ。それ以上でも以下でもない。
上からの命令を仲介するかの女は、私の命など歯牙にもかけない。
適当に放り込まれた寄せ集めの部隊で、未確認機を含む何倍もの敵を相手にしろと簡単に伝えられた。
味方機との意思疎通や連携は困難だ。誰もが戦果を、報酬を求めている。己の手札をこちらに明かそうとはしないだろう。

頼れるものと言えば、自分の腕。それと、


「……」

私は、真っ暗な通信機のモニターをじっと見つめる。

フレイド・コークス。
僚機を組む、その男の顔を思い浮かべて私はため息をついた。
一方的に通信を切ったあの日以来、連絡は取っていない。
出撃はもう数日後に迫っていた。

私は、あの男をまったく認めていないわけではない。
腕は確かだ。
命を危険にさらす大胆な戦い方だが、無謀さとはかけ離れている。
あの時はカッとして勝手にしろとは言ったものの、フレイド・コークスはやつなりに計算した上で判断しているのだろう。
その判断は、これまでのところ誤っていない。

生き延びるためには、あの男の、フレイド・コークスの力が必要だ。
私は、こんなところで死ぬわけにはいかないのだから。



けれど、前回の通信の内容が内容だっただけに、コールボタンを押す前についつい手が止まる。それで、こうしてモニターを見つめている、というわけだった。
だが、ずっとこうしているわけにもいかないだろう。
私はため息をつくと、意を決して送信ボタンに手を伸ばした……


その瞬間、通信機が通話許可を求めて鳴り出す。
フレイド・コークスだ。


どうやら、考えることは一緒のようだ。
私は、おそらく苦笑していただろう。もしかしたら、こちらからかける必要がなくなって安堵の表情を浮かべていたかもしれない。

たっぷり２０秒待たせてから、私は回線を開いた。


　　　　　　***

「ふぅ……」

コークスに作戦を伝え終えた私は、シートに深々と寄りかかる。
それを採用するかどうかはやつ次第だが。

私は、私のできることをやるしかない。

すぐに特殊兵装の限定解除許可を、アヴァロンに申請する。
果たして、許可は下りた。



出撃のサイレンが鳴り響く―……

鉄の騎兵を駆る騎士のためのユニオン。
とある王国が買い占めた土地に建つ巨大な要塞『エクゼター』を本拠地に活動をしている。

ユニオンメンバーになるには、騎士としての十分な名声、もしくは一等以上の位をもった騎士による推薦が必要。
シンボルマークは、青地に銀のガントレット