ENo.0406　ファイブカード

　
コロッセオで剣闘士の真似事をする“仕事”を請けることにした時、そう深く考えて決めたわけじゃあなかった。
未確認機のいる仕事では追加報酬が出ること、それにつられて腕の立つライダーが集まるようなら眺めてみてェと思ったこと、そのくらいか。

敵も新型が多かろうが、少し前に悪名の響き渡った『ドゥルガー』よりゃ相手取りやすかろうと、そう甘く考えていたのは間違いない。



物騒な宗教団体を襲撃する仕事を済ませた後、よその戦場の情報を集めるだけ集めてきた。
ライダーどものうち6人が死に、その多くは新顔の『コロッソス』にバチリとやられたんだそうだ。
電撃への備えを施した機体だろうが、その上から容赦無く致命傷を与えてきやがるんだとか。

なるほどねえと呟いて、操縦棺の座席に背を預ける。
次に赴くコロッセオに、その『コロッソス』も待ち受けていることは分かっていた。
なるほどねえ。こりゃヤバいんじゃねェのか？



あんな晒し者になるような場で死にたかないがどうしたもんかねと、生き延びるための手立てをあれこれ考えていたところだったが。

不意に連絡を受けることになった。同業のハイドラライダーからの。
手短な挨拶と、いくつかの受け答えとが交わされ、そうしてその場は済まされた。



───なるほどねえ。
随分と面白いことを考えるもんだ。

他人の策に命を預けるのもぞっとしないもんだが、持ち掛けられた作戦は中々どうして悪くない話に見えた。
それに何より、これはきっとこの機体の真髄を活かせる役どころだ。
ファイブカード。五つの砲門に五つの砲塔。
面白ェ。こいつがどれだけの力を持っているか、試してやろうじゃねェか。



……しかしまァ、この作戦を取るってことは、戦場で前に出る奴が減るってことでもあるんだが。
矢面に立つ命知らずどもは、せめて危なくなったら死ぬ前に離脱してくれりゃいいんだがな。

戦線が崩れる前にカタを付けられりゃ話は早いが、そのためには俺が俺の役割を果たさにゃならねェ。
精々気合を入れて臨むかね。

それにだ。この話を持ってきた張本人にもしっかり働いてもらわねェとな。
言い出しっぺだ。お前さんにゃ期待してるぜ、ギルデンロウ。

かつての乗り手たちの遺したもの。

今は霧深い荒野に広がる射撃訓練場としてここに在る。
晴れ間のある時分には、乾いた発砲音が繰り返し響く様も聴き取れる。