ENo.0295　リゼット・フォーレ

通信は混線がひどかった。
それはあるいは、霊障と呼ばれる何かなのかもしれなかった。
いまさら、気味が悪いとは思わない。

ただ、通信に障害をきたすのはいただけない。

無意味に回線を開いたり閉じたりしてみる。
意味のある音を乗せない通信に、雑音は少ない。
少なくとも、近くのハイドラとの通信に問題はない……ように思える。
実際のところ、戦闘が始まれば何が起きてもおかしくないけれども。

まして、今日は要塞戦だ。
未知の敵との遭遇。知られざる力の行使があるかもしれない。

操縦棺の中で、ふと息をつく。

緊張はしている。適度に。
張り詰めた糸のように、弛まず、かといって過度に引き絞り過ぎもせず。

大丈夫だ。
コンディションは悪くない。あたしにしては、ということだけど。
これで死んだら運がないのだ。そう思うほかない。

ママ。
あたしの帰りを、たぶん、待っていてくれているママ。
あたしのことを、どうか今日も見守っていて。

ガレージ街の片隅に立つ小さな店。

飴色のカウンターはいつ見ても閑古鳥、マスターも留守がち。
キープしたボトルで勝手に一杯。珈琲豆は自分で挽く。
そんな店だが、金銭のトラブルは意外に少ない。
が、酔漢たちの殴り合いは起きないでもない。

紅色の髪の少女がバラードを歌っている。