ENo.0256　バルトロイ・クルーガー

天井が見える。見覚えがあるような、ないような白い天井。

「……なんだあ、ここ」

呟いた言葉は随分力が入ってないように聞こえる。とりあえず起き上がろうとしたが指先になんだか力が入らなかった。

「起きた？」

不意に上から覗き込んできた顔は知っている顔だ。

「セティか？なんだこれ、オレどうなってんだ」
「……思い出せない？」

わけがわからないと言いたげに尋ねるとセティは不安げに眉をしかめた。

「あん？いや、待て、思い出してみる」

言われて思い出すという行為を忘れていたバルトは一度目を閉じた。この天井の前に見た光景はなんだっただろうか――

――　――　―　…　… …

今度の仕事は廃工場の掃除だった。要塞戦のような不安要素は無く、また同じ場所を担当しているライダーには別の場所で信頼できる結果を残してる者達が数人見受けられる。
だからこそ、多少実験的なアセンブルを組んだ。兎に角、素早く動くためのものだ。

成果はあったような無かったような。戦果的にはパッとしなかったが、その日もなんとか普通に終えることが出来た。出来たと、思っていたのだが――

「……戦場に行って、帰って、覚えてない」
「正解。戦場帰ってからぶっ倒れたんだよ……データ見せてもらいましたけどねえ、アンタ、何してんの。これアンタが人より頑丈だってのはわかってるけどモノには限度っていうのがあるでしょ。だいたいアンタがずーっと無茶して体壊す前にタンクやめたのはなんだったの。神経接続もやりすぎると負担かかるってあれほどいってるのに要塞戦とその次と二回も連続でほぼ開放したような状態でずっと動いてりゃそりゃ最終的にぶっ倒れるハメにも」
「わー！わかった！オレが悪かった！」

耳を塞ごうにも手がいつもどおり動かない。ただ、声だけはよく出るようでくどくど話すセティの声を遮って止めるのだけは成功した。じぃ、と見下ろしてくる視線が痛い事を除けば。

「大方使ってれば慣れるとでも思ってたんでしょう」

弱ったバルトへ痛い視線の次に降ってきたのは痛いところを突いた言葉だった。そのとおりなので何も言い返せない。
無言を肯定と受け取ったセティがわざとらしく大きなため息を吐く。

「しょうがないね。一週間時間よこしな。生まれ変わらせてやるよ」
「……なんかいかがわしい響きにしか聞こえねえ」
「脳まで改造してやろうか？」
「冗談だよ！……ったく」

セティと会話をしているうちになんとなく身体に力が戻ってきた感覚をえて、バルトは腕に力を込める。しっかりと力が入るのを確認すると、上半身を起き上がらせた。
セティのラボの居住スペースらしいその場所はあまりもののない部屋だった。
ふと、記憶にある別の部屋を思い出す。

「……あ、駄目だ。休めねえよ。ダイスに迷惑かけちまう」
「安心しな、代わりに私が仕事しといてやるから」
「げ、お前、戦場行くのかよ……ダイスになんて言う気だ？」
「さあね。アンタがカッコつけてダイスの前では倒れなかった根性はまあ、認める。それでも彼女は何かしら気付いてるだろうし、私が出ていった所で文句なんてないでしょうよ」

にやにやと笑みを浮かべるセティにバルトは何か文句のひとつも言ってやりたかったのだが言葉も浮かばずしかめっ面ひとつ浮かべるだけに留まった。

「……ったく、これで失敗でもしたら許さねえぞ」
「ふん、最高の結果をプレゼントしてやるから今から感謝の言葉考えときなさい」

セティが不適な笑みを浮かべて右拳を突きだせば、バルトもそれに己の右拳を小突きあわせた。

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