ENo.0535　クロノワール・ナイン

「快勝だったわね」

前回のコロッセオの様子が撮影されていたビデをを見返して、ひとりごちる。
片手にはグラスを持ち、くるりと中身のワインを揺らしながらもう一度見返すためにリモコンを弄る。
前回は会議のかいもあり、無事に勝てた。――無名と博士が同時に落ちたときは冷や汗が出たが、なんとかなった。カラミティも無事相方が"からみてぃころし"で落とし、名前負けもせず仕事を果たせていて少しだけホッとした。武器名や、開始前の私の煽りもあり観客も盛り上がったようでアピールは十分、と考える。

「しかし、そう考えるとやっぱり。
　あそこで二人ほど堕ちた時に反応できなかったのは痛かったわね……」

あのミサイラーともう一人のコロッセオランカー、クビツァが墜ちる時にはそれらしく言う予定だったんだけれど、自分の濃霧で見落としていたときにはもう遅かった。
――興行という点を考えると、コロッセオの通信環境ほど映えるものは無い、と考えている。知っているハイドラライダーなんで、片手で数えるほどだけど、通信をするのはタダだ。苦情を貰ったら、その時に考えよう。

「……はむ、あむ」

手元にあるおつまみを口に入れながら、博士のハイドラ―――樽が墜ちるところを見る。何時見てもここは心臓に悪かった、と思う。噂じゃ、博士も"死亡を許容していた"という話だ。実験実験と言っていたのに、死んだら元も子もないのでは？と考えるが、あの手の人物が考えることは理解しがたい、というのは事実だ。大方「残像になった樽がアレば、そのままデータが入り続ける」とでも考えていたのだろうか？……今回のタンクっぷりを考えると、今後博士はコロッセオに入り浸る可能性があるのか、と考えるとどうにもやり難い。あの 樽/壁 をこちらが打ち壊すなんて労力は考えたくもないし、あの"会議"を開ける積極性が敵に回ると面倒だ。

「そういえば、そろそろかしら？」

テレビから画面を外し、タブレットを開く。
今回もコロッセオを選択したが、通常のミッションの方にかなり興味深いミッションが出ていた。多くのハイドラライダーがそちらに行く、という噂は聞いているし、実際あの"カラミティ","ベティ・ヴィーナス"と2回も続けてコロッセオに来ている常連のいくらかもそちらに行っているらしい。粒子霊障というレギュレーションもあって"射撃屋"は来る――つまり、ルカ・タオユン、シャンク＝タイラーあたりは来るのではないか、と睨んでいるが……。逆説、前回と違い少ないのも有り、人気がないのかもしれない。……ま、どちらにせよ、そろそろ届くメールに乗っているだろう。

「――言ってたら来たわね、さて」

「……これ、は……」

「読み通り、"Dr.Lewisia","ルカ・タオユン","シャンク＝タイラー"……」

「今回は残像が少ない、のはコロッセオ参加者が少なさそう、ということから読めていたけれど」

「……第一回目のコロッセオでの活躍どころばかりね、相手は」

一方のこちらも負けていない――"ギルデンロウ","戦場の死神"にそのバディであの戦闘狂AI(炎上狂いか？)の"amnesty incinerate","ファイブカード"に"チアーズ"の二人。……名前を聞かない日がない、というハイドラライダーばかりだ。

「これはこれは、随分と面白いことになりそうねぇ」

有名所の多さに、笑みが浮かぶ。これは良い"興行"になりそうだ、と。ここでそれなり以上の活躍をすれば、名は売れるし、良い経験になる。上手くいけばこのままランキングをあげることも出来るだろう。……ランキングばかりは、下がる心配をするほうが良いのだが、兎も角。

「……ただ、問題はここ最近の疲れよね」

先程まで高ぶるように上がっていたテンションが急落し、ソファに崩れ落ちるように横になる。流石に二連続でのハイドラライダー同士の闘いは神経を、使う。

「……今回のマイクパフォーマンスはどうしようかしら……。
　あーでも、博士と無名さんには前回のお礼のメッセージとぉ……」

くらくらとし始める、心地よい酩酊感に身を任せ、そのまま眠りにつく。

「……」

テレビは、ちょうどコロッセオの試合が始まるところだった――

星を撃ち落とすように――
そして、一瞬の流れ星のように。


我らは撃つ。