ENo.0647　有明

　思えば、あの世界は随分明るかったように感じる。
争いや諍いは絶えず、何かを奪うためや守るために人が死ぬ。
お世辞にも平和なんて呼べないし、力はいつでも必要とされていた。
けれど、この世界みたいに暗くもなければ霧深くもない。
なによりも、あの世界の人々はもっと笑っていた。

　　──「君の笑顔を、守りたいから」

　何度目を覚ましても、深い霧が晴れることはない。
知っていた。だからどうした。この世界はそういう世界なんだろう。
伸ばした手が届かないなら、届くまで手を伸ばせばいい。
この世界に来た理由がないなら、自分の手で作りだせばいい。
昔からずっと、守りたいものが守れればそれでよかったじゃないか。

　　──「大丈夫だよ、僕がついてる」

　太陽の見えない空を、曇ったガラス越しに眺める。
霧の随に浮かぶ光は、相も変わらず灰色に濁っている。
けれどもそれは、未来の喪失を意味しているわけじゃない。
神様のいない世界で頼れるのは、どんな時でも自分の力だけなのだから。
そう独り言ちながら、重い身体を起こし、セーフハウスの扉を押し開いた。

　　──「陳腐なセリフなど、呆れるほどに吐いてきた」

　味気ない携帯食料を口に放り込み、鉄の棺桶に身を投げる。
こいつはハイドラなんて名前らしいが、難しいことは分からない。
繰れば霧の間を縫い、揮えば鉄の雨が降る。そこに違いなどありゃしない。
だから僕は笑顔を浮かべ、己の腕を信頼する。今までと同じように。
いつだって、笑える奴が強いんだ。そんなのは当然だろ？

　　──「どうして僕が死んでないのか、その理由を教えてやる」



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◯メモ
・新しい世界に来た。ここは“残像領域”という名前らしい。
　今のところ、前の世界と比べて良い要素が全く見当たらない。
　まあ、他に行く場所もないのでしばらくは居着こうと思う。

・右も左も分からないのでとりあえず歩いてたら、紫髪の女の子を見つけた。
　話を聞くと、はいどららいだー？となってお金を稼ぐのがここじゃ一般的らしい。
　どうせなのでこのまま頼ってしまおう。可愛い先輩がいればモチベ上がるしね。

・なんだかんだ色々と教えてもらった。パーツもくれたし。結構優しいおねーちゃん。
　そうしてこの世界にも慣れてきたある日、僕は僚機というものの存在を小耳に挟んだ。
　ちょうどいい、おねーちゃんには僕の守りたい人第一号になってもらおう。