ENo.0592　アンドリュー・ツォン

俺が無差別に書き込みをしていたAm●zonのレビューに、俺の仇のあの女が――スカーレットが、「レビュー主の仇です」と書き込みをしてきた。

ようやく、あの女の手掛かりが見つかった。村を焼いてから今まで、影も形も見せなかったあの女が突然、こうして俺に存在感を見せつけてきた。

しかも、その書き込みにはこう書いてあったのだ。




『ご迷惑をおかけしてしまって大変申し訳ありません。今後このようなことをしないよう、レビュー主にはよく言って聞かせたいと思います。評価は五つ星のままにさせて頂きます。』




あまりに唐突であ然としてレビューを読んでいた俺は、レビューの最後のこの文章を読んで、沸き立つような興奮を感じた。

これはつまり――あの女が、近々俺に直接コンタクトを取ってくる可能性があるということではないか？



※


それからは、興奮を抑えられずに過ごした。最近はすっかり動画とかナース服にかまけて埋み火のようになっていた、復讐の炎がこの身の内で猛るのを感じていた。

絶対に逃すものか。あの女は、必ずこの手で捕まえてやる。

捕まえて、そして、その先は、ええと、あの、その、どうしよう、本気で見つかるとか思ってなかったから、特に何も考えてないんだけど。でもこういうのは気持ちが大事っていうか。探し続けることに意味があるんだと思う。マジで何も考えてないけど。

だが、仇の手掛かりを掴んで色めき立ったのも束の間。数日後には、また新たな事件が俺のアジトに舞い込んできた。




ユリア・クールハート。




それが、ある日突然入って来た通信に表示された名前だった。

「えっ、女の人……？」

あまりにびっくりし過ぎて、そのとき俺は素で独り言を言ってしまった。

見間違いかと思って、画面をもう一度確認する。ユリア・クールハート。間違いない。確かに、女の人だ。

どうしよう。女の人だ。えっ、ほんとに女の人？マジで？？？ほんとに？？？？？

画面を二度見する。もう一度だけ、と思いながら確認する。何度も見ても、ユリア・クールハートさんは確かに女の人だ。

うわーーー！！！！！女の人だーーーーーー！！！！！！！！！

びっくりし過ぎて椅子から転げ落ちてそのまま床で強かに尻を打った。何で？何でこの人は俺に通信を入れてくれたの？女の人に話しかけられるのとか、多分小学生の給食当番ぶりなんだけど！！！

一通り驚いてから今更ながらメッセージをよく読むと(びっくりしすぎて最初は内容が頭に入ってこなかったのだ。ユリアさん、ごめんなさい。)次回の戦場が一緒のため、わざわざ挨拶をしに来てくれたのだと言う。

めっちゃ良い人やんけ……と感動してちょっと泣いた。でも、戦場でエッチな動画を見ていたこととかがバレてるっぽいのには、うわ〜っ恥ずかC〜っ！て思ってちょっぴり顔が赤くなった。

ユリアさんからの通信で俺はすっかり平常心を失ってしまい、知恵熱を出して仕事を休んでしまった。そのせいで結局ユリアさんに会えなかったのでしょんぼりした。お礼を言いたかったな…って熱でウンウン唸りながらまたちょっと泣いた。

返事をするのにもけっこうまごついてしまった。女性と会話をすることに緊張したのも理由の一つなのだが、俺が普段のノリで返事をしたら女の人普通引かない？と思ってめちゃくちゃ悩んでしまったのだ。自分からこんなまともな発想が出てきたことに、自分でかなりびっくりした。俺やればできるんだな……って自分に対してちょっと感心した。

悩み過ぎて返事を二週間も保留した。二週間悩んでいる間は、立ったり座ったり、ナース服を着たり脱いだり、着たつもりで全裸のまま戦場に行ってチームの仲間に温かく無視されたりした。みんなかなり俺の扱いを心得てきたな……と戦場で俺は不敵に笑った。

二週間の間、昼も夜もずっと返事のことで悩んでいたので、その間は仇のことはすっかり忘れていた。そしてそこまで悩みに悩み抜いて、とうとう俺は二週間目の夜、ようやく返事をすることに成功した。ユリアさんに引かれないよう、爽やか路線でいくことにしたのだ。なれなれしくならないように敬語は崩さず、距離感を保つことを心がけた。

だが、動画とかナース服の件はユリアさんにもう知られているので、今さら爽やか路線を目指しても無駄なのかもしれない。何かが足りない。エッチな動画の印象を一変させるような、そんな決定的な何かが。女性に嫌悪感を抱かせずにあの動画の素晴らしさを伝える、そんな何かが……。

駄目だ全然思いつかない。

俺は頭を抱えながらツイッターの女装コスアカウントにログインした。自分のナース服自撮り写真でも眺めて落ち着こうと思ったのだ。

ログインした先のタイムラインで話題になっていたのは、タイミング的に夏のコミケだった。とある大物女性芸能人二人がサークル参加し、大盛況だったという話題だ。

彼女らはかなり露出の多い服装でセクシーさをウリにしているのだが、独特のキャラクター性も相まってか男性よりもむしろ女性に人気が高い。先日のコミケでも、かなり多くの女性ファンがスペースに詰めかけたようだ。

そんな話題で持ちきりのツイッターのタイムラインをスクロールしながら、俺は確かな手応えをこの手のひらの中に握りしめていった。これならもしかしたら、いけるかもしれない。








ユリアさん、こんにちは！僕、アンドリューって言います！この間はメッセージを送って下さって、本当にありがとうございます！お元気にお過ごしでしょうか？

ニーユさんのお知り合いだったなんて、とっても奇遇で嬉しいです！僕は彼に一度マーケットで出会い、動画を売ってもらったので、よく覚えています！

ニーユさんは動画の内容と同じで、超絶セクシー♪天使のマシュマロ・バストちゃんの持ち主ですね♪

ユリアさんには、戦場であの動画を流してしまったことなども知られているようで、何だかお恥ずかしいですが……ファビュラスでヘヴンリーなあの動画は、戦闘の最中も気分を高揚させてくれる、とってもマーベラスな動画であると考えておりますよ♪

最近は、超絶セクシー！？気絶級ナース服♪を着ながら、動画を見るのが、休日の趣味になっておりますよ♪

コルヴス・クラクスブランドのファビュラスなナース服は、大柄の成人男性サイズながら、魅惑の着心地……、
着ているとそれだけで、マーベラスな気分ですよ♪
よろしければ、ユリアさんも、ナース服をお召しになってみてくださいませね♪

ヘブンリーな夜と
ローズの愛の香りを…、
プレシャスな天使が
あなたに…、
幸せといっしょに
とどけてくれますように。

kiss♪

チュッ♪







通信を終えた俺は、ふう、とため息をついた。やりきった。そんな充足感が全身を満たしていた。

二週間という長い闘いを乗り越えたのだ。とても爽やかな気分だった。ニーユさんとコルヴスさんに、勝手に戦友のような気持ちを抱き始めてもいた。

今度は三人でナースコスがしたいなって思った。