ENo.0066　全くダメなウォーハイドラ乗りの男

『最近アシストやってンだか殴ってンだかもうわからねえなこれ』。
『もーっっと面白いことできりゃ最高だぜェ』。
『…………初めての舞台だし、ヤってみるか』。

　
　“残像領域”の片隅にある寂れた酒場。
　飲んだくれが壁にシミを作りながら寝込んでいる。
　あるいは店名の通り、掲げられたダーツボードに投じ続ける客もいる。
　あるいは三文にも満たない噂を流す客がいる。

　別にどうということのない、単なるクソッタレどもの休憩場だ。
　その気になれば誰かを歓迎するし、誰にも干渉しない空気が流れている。
　時たましゃがれ声や、低くうなだれたような声の雑談が聴こえる。
　
『闘技場（ダンスパーティー）に出るだって？　あ――確かにこの時期あんま“外”には出歩きたくないよな』。
『だろ？　あと面白そうだったし。あの女からの通信が相変わらず鬱陶しいし』。
『またか。俺らは勝手してるだけなのにねえ』。

　うなだれるように飲んだくれる男が二人。
　仕事が斡旋される以上、そこらには逆らえないが、外部の人間に頼まれたとて報酬がなければ付き合う義理はない。
　レジスタンスについての情報は辺境に詳しい男が取り回しているが、優先度の高い調べ物は別にある。《領域殲滅兵器》だ。

　既に何人かの使用者がいる以上は調べやすいが、棺桶（ハイドラ）乗りの男が「適当にとっつける」と言い出したものだから頭を抱える。
　こんないきなりの、しかも大して装備のない状態でいかほどの火力が出るのか。そもそも出せるのか。試算するだけでも「ないほうがマシでは」と既に述べている。
　闘技場は戦果を奪い合うだけではなく、相手を制圧するという意味でも突き詰めたアセンブルを要している。こんな呑気な男が身勝手に闖入したとあれば、目をつけられるのでは？　とも進言していた。

『べっつにー。だって、俺は死なないぜ？』。
『お前はな！　他に脱出機構やら捨ててる輩は死ぬぜ』。
『そーだネエ。でもそれも含めて来てるンだろ？　知るかよ』。

　確かにこの“逃げ際だけは周到”な男にしてみれば関係ない。恨むだけ意味なしだとするのなら、それは己が運を恨めとしか言えない――そう、相手のチームを見る限りは、結局そういう風にしか言えないのだ。有名人（トップランカー）が一堂に会している。
　「顔並びを見ただけであっちのオッズはどうせ低まる一方だろう」。
　強かに揶揄する参加者の男。

『ケッ、向こうさンもチーム内の戦果の奪い合いでやきもきしてるに違いねえ』。
『じゃあ俺は向こうにうんと賭けておくか。お前の酒代（なぐさめ）にでもいいだろうよ』。
『ひ～、泣けるぜ』。

　努めて“無理ゲー”の様相を呈している。