ENo.0574　言語魔術師アリューカ

「『劇場版　ハードラックダガー　VSハリウッド』／主題歌『コバルトブルー THE BACK HORN』
　って、何だこれ？」

　オッティアが質問する。

「あーだめだめ。これはこの世界ではまだ封切りされてない設定の映画っていう設定なんだから」

　アリューカはトートロジーのようなことを言ってオッティアを押し退けると、
　自分の夢の中で動画の編集作業に戻る。

「夢の中が作業空間とか……もうなんでもありだなアリューカ」

「そりゃ、こんだけ大きな記録デバイス、残像領域にもそうそう無いからね。
　使わなきゃ損ってもんでしょ。魔術師ならこのくらいはできて当然だよー」

　そこには無数のウィンドウが開かれ、あらゆる角度から撮影（空想）された
　ハードダガーとハリウッド俳優たちの戦いの様子が刻一刻と姿を変えて映り続けていた……。




　それから数刻。脳内先行上映会。

『俺は強い』『I am strong』『나는 강한』『我很强壮』『Я сильный』『Ich bin stark』

　ハードダガーの決め台詞は全100カ国語に訳され、観客は震えて声が出ない。
　むろんその震えは、恐怖からではない。
　映画史に残る名作の誕生の瞬間に立ち会ったことに、文字通り震撼しているのだ。

　開幕から始まる、ステイサムの容赦無い暴力との回避壁ダンス。
　「踊ることしかできないのか？」「ああ、よく褒められる」

　クモ男との摩天楼の上でのやり取り。
　「僕は君を倒す」「しなやかで強い。だが硬質さが足りない」

　コウモリ男との空中戦。
　「私のターンだ」「残念だが、0ターン目で勝負はついている」

　鋼鉄男の繰り出す数々のギミック。
　「私の発明品はどうかな？」「強い。だが……硬質ではない」

　爪男の爪とぶつかり合い、火花を散らして。
　「これは硬質だ……しかし惜しい。ダガーではないな」

　黒鼠の魔法にかけられて。
　「ハハッ」「軟質な夢だ。もっと硬質な夢はどうだ？」

　そして、ハードダガーの真の名は、最後まで明かされなかった。

　130分の上映とスタッフロール＋主題歌が終わると共に、観客は全員がスタンディングオベーション。
　汗と涙と鼻水が混じり合い、全ての語彙を喪失し、「ハードラックダガー劇場版はいいぞ！」としか
　喋れなくなった連中がキスしたりハグしたりして、会場はどったんばったん大騒ぎとなっている。




「で、これはネタバレしていいのか？」オッティアが問うと、
「だめー。この世界ではまだ封切りされてない設定の映画なんだからね！」アリューカが答える。

「じゃあ、質問を変えよう。なんでこんなもん作ったんだ？」
「最近寝つきが悪くてね。映画でも見ながら寝落ちしようかと思って」

「……理由が硬質じゃないな」

　オッティアは呆れ、残像領域の夜は更けていく――。

■説明
　霧の中、残像領域にうっかり紛れ込んでしまった異世界の人専用のユニオンです。
　ユニオン活動は格闘*5です。ユニオン購入は素材+1ですが、柔軟に対応したいです。

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　警告 警告 警告 警告 警告 警告 警告 警告

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……るか……えるか……聞こえるか……
……今……私は……世界を超えて語りかけている……
……元の世界……異世界に故郷を持つ者たちよ……
……集まれ……集うのだ……帰還……めに……

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　ワールドクラッキングを検知しました。
　逆探。対象を特定。シャットダウンします。

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「青空を見たのは、何時のことだったか」
「夕焼けを見たのも、だいぶ前になるねえ」

そんなことを呟いても、得られるものなど、何もないというのに。
自称＜訪問者＞たちは集い、情報交換し、切磋琢磨し続ける。

霧の果てにあるものが、故郷よりも大切なものかもしれないと思い始めたとき、
その瞬間に大義名分は朽ち果て、残像領域こそが真実＜リアル＞なのだと気付くのだろう。

デイドリームビリーバーは死ぬ。でも、せめてそれまでは。