ENo.0600　泥の獣達

つい最近の事だ、名前も知らない者を取り込んだのは。
それは人間と呼ばれるにふさわしい脆弱さと、諦めの悪さと、自分の死についての怒りを抱えていた。
既に生物としては死んでいたが、脳に残った僅かな電磁パルスは、彼の苦悩や、苦痛、後悔等の感情を色濃く残し、それを取り込んだ我々は多くの情報を手に入れ、進化と呼ぶにふさわしい行動を起こし始めた。
それぞれの希薄な自我をひとつにまとめ、統一人格を作り出していった。
私も他の生き物たち、それぞれが私であり、私が彼らでもあったのだが、今は薄くながらも一つの人格（人ではない我々が人を名乗っていいのかは難しいところだが）を形成していった。
今の私は、統一人格を横で観察している形だ。
元々私の役割は観察と記録である（自称でしかないが）のだが、彼？彼女にも勿論私の意識が混ざっているように見える。彼は今までの私達のような破滅的な衝動を持ちながらも、生物として持っているのが当然な理性をわきまえる事ができているのだろうか。
我々が我々で居た間には、野放図な怒りを吐き出すような突進と、痛みを受ける事が喜びのようにまで思えていた。必然、それは泥臭い殴り合いで、死を理解できない生物ですらない何かの見るに堪えない遊びであり、人から見れば踊っているようにも見えたかもしれない。
そもそも根本的なところで、私達はハイドラなのだろうか、ライダーなのだろうか。
棺を覆う我々という名前の粘性を持った泥がそれだと言えるのだろうか。
統一された意識もなく、機体とライダーの境目すらなく、生物としてすらも十全ではない。
この機会によって、初めて我々がハイドラとして成り果てるのか、それとも今だ進化の過程の何かしらとして蠢くのか。

とにかく、また思考を垂れ流すこの惰性の如き行動を一旦区切ろう。
そして、新しい私達を祝福しよう。
ようこそ、霧の世界へ。
君の名前を考えなきゃいけないな、もし、その時が来たならば受け取って欲しい。

ではおやすみ我が子、良い戦争を。

底が見えない水たまり