ENo.0592　アンドリュー・ツォン

ストラトスフェア要塞攻略戦――。

次の戦場の名前を見たとき、俺は自分の腕が微かに震えていることに気が付いた。

――武者震い、なのか？

現実逃避のように心に浮かんだその問いを、俺は即座に打ち消した。これは、戦場を目の前にしたライダーとしての心の昂ぶりなんかではない。

紛れもなくこれは、怯えからくる震えだった。



※



俺がこの残像領域に来てハイドラライダーになってからというもの、戦場を共にする仲間たちから度々、要塞攻略戦の過酷さは聞き及んでいた。

過去の要塞戦で、命を落としたライダーは数知れない。要塞戦という言葉を聞いただけで休暇を申し出るライダーもいる、なんて、そんな冗談みたいなことを戦場の仲間たちは真剣に語った。

空中要塞、ストラトスフェア。成層圏の名前を冠した、天高く浮かぶその要塞には、大量の敵機とミサイルキャリアーがいる。

空の果ての要塞から、幾千、幾万ものミサイルがウォーハイドラに向かって容赦無く降り注ぐであろう。ライダーたちは無数のミサイルをかいくぐり、撃ち落とし、攻撃に堪えなければならない。それができなければ、そのライダーを待っているのは、死だ。

過去の要塞戦に同じく、今回のストラトスフェアもきっと過酷な戦いだ。少なくとも、俺が今まで経験した中では最も厳しい戦場になる。それだけは、確かなことだった。

……正直なこと言って良いかな。

めっっっっっちゃ休みたい。



※



マーケットを歩く俺の足取りは重かった。

気が重すぎて、気付かないうちに吐く息が全部ため息になる。アジトに籠っていても気が滅入るだけだし、仕事のこと忘れるためにちょっと外でも出てみようかな……と思いマーケットまで足を運んでみたのだが、逆効果だった。マーケットの中は次の要塞戦の話題で持ち切りで、いつも以上に異様な熱気と興奮に満ちていた。アウェイ感で余計にしんどくなってしまった。

当たり前か。ここにいるのみんな、ハイドラライダーなんだもんな。

マーケットをとぼとぼ歩きながら、みんなすごいなーって思ってまたため息をついた。要塞戦を前にして、ここにいるのは腕自慢のライダーたちばかりだ。みんな、いつにもまして真剣にパーツを吟味している。平素のマーケットよりも一層凄みを増した熱気に満ちているのは、幾多の戦場を潜り抜けてきたライダーたちが要塞戦に血をたぎらせ、腕を鳴らしているからだろう。

みんな、ほんとにすごいなー。心の底からそう思ったし、羨ましかった。俺、ここに来てもう結構経つし、何だかんだあんまり休暇も取らずにほとんど毎回仕事に行ってるけど、戦場が楽しみなんて思えたことないよ。みんなほんとすごい。おんなじライダーとは思えないよ。

よし、休もう。

一秒で決めた。決意が固まったから、結局はマーケットに来て良かったのかもしれない。

しかし俺は次の瞬間、その決意が揺らぐようなものを見つけてしまった。