ENo.0079　レナンティス

「おっつかれー。」
「ああ、御苦労」
　ユベルは歯ブラシを動かす手を止めた。本日の拠点場所で就寝前の歯磨きをしていた所である。少女――レナンティスは隣の蛇口を捻ってばしゃばしゃと顔を洗った。無論、質量がないので、顔を洗っている真似事だ。水はそのまま垂直に落ちていく。
「しっかし暗いなー、いくら月明かりったって光燈ぐらいつけようぜ？」
「この方が落ち着くのさ。」
「うわ、吸血鬼みたいなこと言うなぁ――って、どうせ悪魔だっけか」
　手拭で顔を拭く。その間もしゃこしゃこと規則正しく歯磨きの音が響く。
「そっちは終わったか？」
「ああ、損傷が少ないからすぐに。猫も寝た」
「あはは、お疲れ！　こっちもやっと明日の食事の準備が片付いたぜ」
　ふと漸く喉の渇きに気付き、屈んで蛇口から直接水を口に含んだ。
「……いい加減マリエッタ嬢に告白でもしたらどうだ」
「ぶっ」
　唐突に独り言の如く話題を振られてお約束の噴き出し。
「えーと、一応確認までに。その”告白”ってどういう”告白”を指してンの？」
「ほう、逆に問うが、”Ｉ　ＬＯＶＥ　ＹＯＵ”以外にどんな選択肢があると？」
「はい。らしくもなく愚問でした。うーん。やっぱり伝えた方がいいのかなー」
「少なくとも先日の夕食時の反応は怪訝に思われているがね」
「だろーなァ。エッタちゃんは鋭い子だし」
「口での告白が気恥ずかしいならばいっそ既成事実と組み伏せて」
「ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー！？」
「――なんて、貴様に出来るわけがないだろうがな」
「……てめぇやなことばっか覚えてくるよな」
「ヒトとは過去の失敗から学ぶためによく覚えておかないといけないモノなのだろう？」
「わーってます、わーかってるって……ちゃんとその内伝えるよ」
「頼むぞ、貴様が幸せにならないと猫が五月蠅いのでな」
「はいはい。努力しますー」
「うだうだ言ってないで、納まるとこ納まればいいのに」
「この期に及んでまだ言うかぁあああ！！」

がらくたと、猫と、幽霊と。
特に何もしません。まったり。