ENo.0206　モニカ・フランクリン

　あの男を殺した時のことをたまに思い出す。



　クズそのものみたいな男だった。
　父親と思ったことは、当然ない。血も繋がってないのに、お兄ちゃんの仕送りに寄生してるだけなのに、どうしてそんな顔ができるのかも不思議だった。
　お兄ちゃんから、どれくらいの額が送られてきていたかはついぞ知らない。でも、こうしてハイドラライダーをやってると思うけど、それなり、相当の額を仕送りできたんじゃないだろうかとは思う。お兄ちゃんはお兄ちゃんでライダーを始めるのに借金もあっただろうけど、それなりに長くちゃんとやってたんだろうし。
　だから、あいつが酒を飲んで遊び暮らしていなければ、お兄ちゃんからの送金が止まったって、そんなに苦しくなることもなかっただろうに。

　金がないのだと繰り返し言っていた。
　私が稼いだささやかなお金も時には取り上げられた。隠しても部屋中を掻き回されて、見つけられなかったならモノに当たって。
　その金で何を買うかって、やっぱり酒だとか、下手したらクスリだとか、全然ろくなもんじゃなかったろうに。

　その日あの男は特に荒れていて、多分まあ、そういう、あいつを保ってるものが切れてたんだと思う。禁断症状とかそういうやつ。
　だから、一際強く殴られて、痛かった。床に転がったゴミが背中に当たって尚更。
　なのにあいつはお構いなしに乗っかってきて、手が、気持ち悪くて、だって、

「――やめて！　やだ！　放しっ――嫌！」
「――うるせえ！　無駄に育ちやがって、役にも立たねえくせに！　せめて大人しく使われろ！」
「――嫌に決まってんでしょ！　この――やだ、やめ、この――！！」

　あんたなんか、って、
　叫んだのはよく覚えている。

　何で殴ったんだっけ。多分酒瓶とか、転がってたやつ、それで倒れてて。あいつが。
　う、って、呻く声がした。それで生きてるんだって気付いて、だから、怖くなった。何されるんだって。このままじゃ、それで、延長コード、そう、電源のやつ、それが目に入ったから、だから、だから必死だった。
　あいつが意識を取り戻す前に。わかんない、意識はあったのかも、とにかく、これ以上ひどいことなんてされる前に。されないようにって、首に、



　――握り締めたコードを、どれくらい引き続けてたかは覚えてないけど。
　でも、あいつが確かにもう、絶対にもう動かなくなってることに気付いた時、私はもう、どうしようもなく安心したんだった。

ひとりでもユニオン。