ENo.0316　リビー・ニエロ

　
リビーは薄暗いガレージの天井を見上げ、そこにゆるゆると渦を巻き立ち上る煙を眺めていた。
寝煙草するほど煙草に飢えちゃいなかったんだがな……と、咥えたフィルターを噛みながら、ひとりごちる。
霧で湿ったマットレスはあまり快適とは言えないが、それでも大の字で転がる小柄な男の背を支えるくらいの役目は果たす。
リビーは短くなった煙草を摘むと寝転がったままぐっと手を伸ばし、途中で灰が落ちるのも気にせず、サイドボードの灰皿へ押し付けた。
積み上がっていた吸殻が崩れる。

最近、リオの顔色が悪い。
表情も暗い。

ふとした折りに酷く考え込む様子を見せる。
それでいて、リビーの顔を見ればやたらと明朗にふるまう。

リオは、その生い立ちからか、今までも時折不安定な様子を見せることはあった。
しかしそれらは——稚くはあれど——悩むに値する悩み、憂うに値する憂いだった。
リビーもその程度のことでくちばしを突っ込むような柔な男ではないし、野暮な真似もしない。

しかし最近のリオにちらつくものは違う。
恐怖。
怯えた小動物を思わせる純粋な恐怖。
隠そうとする目の奥に怯えが揺れ、かろうじて笑みの形を貼り付けた唇の端はかすかに震えている。

モンテズマが何も言わないところからして、すでにあのAIは原因を知っているとみていいだろう。
短くはない付き合いだ。
リオとモンテズマの関係性を、リビーはある程度理解している。
あの『特殊な』AIが、リオのあれほどの痛苦を、その表情を、見逃すはずがない。

「……つまり、俺には言えねえことか、……もしくは、訳ありで、様子見中か……」

自分に言えないだけならいい。
言いたくないことを言わせようとは思わない。
ただ、リオの表情が気になった。
迷子の子供のような、寄る辺のない怯え。
か弱い生き物が捕食者に捕まったことを悟ったような。
死刑台に送られるのが分かっているのに自らの歩みを止められない者のような。

一歩、また一歩と近づいてくる死神に相対しているような。

そんな怯えを、リオから感じるのだ。


ふ、と息を吐く。
口元に煙草はない。
だから紫煙が溜め息を誤魔化してくれることもない。

見上げる先は霧。
先ほど確かに吐いたはずの煙も、すでに霧に紛れて掻き消され、白く湿った闇に飲み込まれてしまった。

ここは寒い。
闇が近い。



闇の中、静かに佇む黒金乱眼のコックピット内では、無音のままコンソールパネルの隅にグリーンランプが点滅していた。
まるで息遣いのように密かなそれは、まだ誰にも気づかれていない。


　

　
リビーが『黒金乱眼』を置いている格納ガレージ。
薄暗いガレージの隅には古いマットレスと毛布、多少の荷物が無造作に転がっており、ここで寝起きしているようだ。
　
　
ガレージの中央に鎮座するのは『黒金乱眼』。
機体が置いてある部分はきちんと照明や整備機器、および簡易のテーブルと椅子があるが、それ以外はがらんとしていて薄暗い。
　
　
　
【ユニオン基本】
・格闘上げ＋ロールプレイ舞台。
　情景描写のお供にどうぞ。
　
・参加希望の場合はENo.316までメッセージをいただければ次回更新時に随時許可宣言予定。
　（メッセージ内の最後に【希望】と入れてくださると分かりやすくて助かります）
　未参加のまま、情景を利用したメッセージのみのやりとりも可。
　
【ユニオン活動】
・格闘
　
【ユニオン購入】
・機動力+3%
・経験値+1