ENo.0316　リビー・ニエロ

　
行きつけのコインランドリーは少し寂れた界隈にあるが、設備と整備がそこそこ良い。
そのため、いつもなら一人二人、洗濯物を抱えたハイドラライダーや整備師の姿があるものなのだが、今日は珍しくリビーたち以外誰もいなかった。

リビーは口の端に咥えた煙草を軽く揺らしながら、手にしていた衣類やシーツをドラムの中にぽいぽいと放り込んだ。
ハイドラライダーとなる前からいわゆる『部隊生活』の長いリビーは、平時において必要最低限の衛生を保つことを、あまり苦にしない。下っ端になればなるほど洗濯や掃除や整理整頓は常に求められるため、慣れもある。その手つきが丁寧さや繊細さから程遠いことは否めないが。

いくばくかのクレジットを入力し、パネルを操作してコースを選ぶ。ピ、と決定ボタンを押すと、低い唸りを上げて機械が動き出した。
この店の洗濯機は自動投入される備え付けの洗剤が非常に強力で、ハイドラの整備時などに付着する大抵の汚れをきれいさっぱり落としてくれるのも良い。機械油が残っていては乾燥機が使えないせいだろう。

しばし放っておける時間を手に入れたリビーは、さて、と横目で様子を伺う。
隣ではリオが、洗濯機の蓋を開けたところで動きを止めていた。
洗濯物を握りしめたまま、宝石のような不思議な色合いの瞳がぼうっと霞んでいる。
目の前にある無骨な生活電化製品たる洗濯機ではなく、どこか遠くを見つめる眼差し。
そこにはまるで外を漂う霧のように、不安定さが浮かんでいた。

まただ。
最近のリオはよくこういう目をする。
不安の輪郭は朧げなまま。ただ、そこに浮かぶ不安や焦燥は日に日に濃くなって行く。目の下の隈も。
少年と青年の間のような若々しさを見せるほのかに丸い頬の稜線が、わずかに削げたように感じるのは、その隈のもたらす錯覚だろうか。

「おい、リオ」
「……」
「リオ」
「えっ？　あ、済まない。なんだろうか」

はっとしたように二度瞬きをして、慌ててこちらに向き直るリオの顔に、疚しさや後ろめたさはない。
何を考えているにしろ隠しているにしろ、それはリビーや他の人間に関わることというより、リオ本人の内面に関することなのだろうと察せられる、愚直ともいうべき素直さがリオの表情にはあった。

（こいつのこういうところが心配だ）

リビーはそれを言葉にする前に、ふう、と吐き出した煙に溶かした。自分ごときが言うことでもないだろう。
ただ、モンテズマという名の『リオを第一に考える存在』には、もう一度話しておく必要があるかもしれない、と頭の中のメモに記した。かのAIに一つでも多くの情報を提供するのはやぶさかではない。

「なんでもない。それ、洗わねえのか？」
「ああ、うん、洗う。済まない、ぼうっとしていた」
「モンテズマから連絡か？」
「いや、無線は来ていないよ。済まない、本当にぼんやりしていただけなんだ」

少し恥ずかしそうに目を逸らしたリオは、リビーがすでに全ての洗濯物を洗い始めていることにようやく気付くと、手持ちの荷物を大急ぎでドラムに突っ込み始め、リビーは壁際のベンチに腰を下ろして、その慌てぶりに低く笑った。

忙しなく洗濯機をセットするリオの様子を眺めながら、膝の上に肘を置き、頬杖をつく。
笑みの中に、油断なく窺う青い目を隠して。


（不安の中身を知らされないままでも良い）
（ただ、それを消し去ってしまえる方法があるのなら）
（俺は）

　

　
リビーが『黒金乱眼』を置いている格納ガレージ。
薄暗いガレージの隅には古いマットレスと毛布、多少の荷物が無造作に転がっており、ここで寝起きしているようだ。
　
　
ガレージの中央に鎮座するのは『黒金乱眼』。
機体が置いてある部分はきちんと照明や整備機器、および簡易のテーブルと椅子があるが、それ以外はがらんとしていて薄暗い。
　
　
　
【ユニオン基本】
・格闘上げ＋ロールプレイ舞台。
　情景描写のお供にどうぞ。
　
・参加希望の場合はENo.316までメッセージをいただければ次回更新時に随時許可宣言予定。
　（メッセージ内の最後に【希望】と入れてくださると分かりやすくて助かります）
　未参加のまま、情景を利用したメッセージのみのやりとりも可。
　
【ユニオン活動】
・格闘
　
【ユニオン購入】
・機動力+3%
・経験値+1