ENo.0649　アキラ・ハリアエトゥス

意気込んだ割に戦果を得られなかった廃工場での掃討戦から2日。
珍しいことに俺は、市街地方面へとやってきていた。

俺の住むガレージのある廃墟群から車で小一時間。
今日は“パンディオン”は持ってきていないため、いつもの大型トラックではなく、小型のピックアップトラックを出している。

流石は人が多いエリアだけあって、霧が薄い。
いつもの廃墟群は建物から出て20m先が見えるかという濃度だが、ここなら50mは見える。
車道には車。街頭のテレビでは企業連側の放送がひっきりなし。顔くらい隠してきたほうが良かったかもしれない。

「……まあ、そこまでするほど顔も名前も知れちゃいないだろう」

少し哀しくなる事をつぶやきながら、今日の要件の一つ目をクリアしに行く。
……そう、今日わざわざここまで来たのには理由があるのだ。

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今朝。“パンディオン”への補給を終え寝落ちしていた俺は、起きるなり朝食を取ろうとした。
仮眠室を出て、連絡通路でプレハブ小屋へ。あくびをしながらドアを開け、キッチンへ出る。
『稼げるかも分からない』と安いものを買い込むようにしていたため、シリアルのようなものが山ほどストックされている。
俺はその防霧仕様のジップロックの袋を手に取り……そして、戦慄した。

中身が、ない。

素材がなんだかよく分からない、残像領域産のシリアル。
まずくはないが砂糖と小麦っぽい味しかしないシリアル。
牛乳をかけて食うのはどこも同じだなと笑ったシリアル。

それが、ない。

段々と記憶が戻ってくる。昨晩、整備に点検そして補給を一気にやってしまった俺は、キッチンからカロリーバー（ビスケット状のバーで、最低限の栄養が添加されている）の最後の一本を持ってきた。
カロリーバーを選んだのは好きだからなどではなく、他の在庫が見当たらなかったため。
それだけの夕飯をさっさと食べた俺は眠く、空腹で、しかし何か追加で取りに行こうとも思えずそのまま寝てしまったのだった。

……他の在庫は見当たらなかったのではない。あのバーが、俺に残された最後の食事だったのだ。
もはや俺に残された物は霧から抽出している飲料水しかないのである……

…………いや、“悲観にくれているゴッコ”をしている場合でもない。
本当に食料がない以上、すぐにでも買いに出なければまずいだろう。
幸いなことに以前買いだめしたときよりも金銭の余裕はある。もうちょっと旨いものも食えるだろう。

ため息を吐い着替え、コートを羽織る。食料を買いに出るだけだ、“パンディオン”は要らない。小さい方の車でいい。
俺は腹を鳴らしながら、都市部への道路へと車を走らせ始めた


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ドライブスルーを通過。買ったのはハンバーガー二つと飲み物……とりあえずコーヒー。それとセットのチキン。
まずはなんでもいいから腹に入れたかった。それに、肉など久しく食っていないような気がした。
助手席に紙袋を置き、大型スーパーへの道すがらで片手で食う。悪くない。
だがこのパティ、ビーフじゃなくて大豆が多めじゃないだろうか。まあ、嫌いじゃないが……。

二つ目のバーガーを半分ほど齧ったところでスーパーに着いた。駐車場に車を止め、まずは完食する。
チキンは揚げたてだったようで、なかなか満足できた。


カートを押して入店する。目的は保存食。シリアル、缶詰、乾き物、瓶詰め……ややコスパは悪いが、レトルトパウチもいい。
カートに次々と箱で積んでいく。……せっかくだ、瓶の飲料も色々買っておこう。
炭酸飲料、ジュース類、多少酒も買って行く。嗜好品も買う余裕があるのはいいことだ。



──最終的に、今すぐ必要というわけでもない工具類も含めて余分に買ってしまった。
実を言うと愛用のハンドガンのレーザーポインタが故障したため、防霧処理しつつ修理したいところでもあった。
そのための道具、それとあんまり関係ない道具、全く関係ないがつい買ってしまった低反発の枕。

ピックアップトラックの荷台に全て積み込むのに10分ほどかかってしまった。
容量的にもギリギリ、もう少し考えて買い物をするべきだったか。


甘いものをと思って買ったクレープを片手で齧りながら家路につく。
市街地のクレープは、俺にはどうにも甘すぎた。

ユニオンに加入していたほうがいい、と聞いたアキラ・ハリアエトゥスが設立したユニオン。
正式に届け出は出しているがメンバーは一人であり、いわゆるペーパーユニオンである。

加入希望者は一応募集しているが予定はない。