ENo.0683　オスカー・ヘンズレイ

Another day one～飲みづらい真実を口当たりのいい嘘で


「東方面軍外国人機動兵部隊所属オスカー・ヘンズレイ少尉、入室します」

「入れ」

　短い言葉と同時に扉が開く。
促されるままに中へと入ると……そこには勲章で鱗片鎧でも作れそうなお偉方が３名程
こっちを睨みつけるように座っていた。
いつだったかブロードキャストで見た、アイドルのオーディションみてぇだなと思ったが
迂闊な軽口なんぞ叩こうものなら、その鋭い眼光で射殺されてしまいかねない。
どちらかというと処刑台のがしっくりくるな……何せこれから始まるのは……




　あいつが、バートが戦死したという報がヘッドラインになったのは三日前だったろうか。
西方部の森林地帯で敵軍の大隊に包囲され、そこに救援に向かう途中で待ち伏せされて……という内容だった。

　嘘だ、と思った。
あいつがそんなヘマするものか。

　嘘、だと思った。
俺が最後に会ったあの日、バートは技術協力の為に開発局へ行くと
ちょっとした休暇みたいなものだと言っていたはずだ。
報じられていた場所は確かに作戦行動が予定されていた地域だが、
例え途中であいつの任務に変更があったとしても、西方森林部まで行くには無理がある……
何より、東方面軍お抱えのバートが、西方面軍が指揮する作戦に参加するはずがない。

　俺はしがない傭兵だが、だからこそ軍内部の派閥ってやつの話は耳に入ってくる。
多分、あいつは何か別の争いに巻き込まれたんだろう……
俺をわざわざ呼びつけた事があいつがただの戦死ではなかった事を裏付けている。

　
　今回、俺がここにこうやって呼ばれた理由はただひとつ
バートが俺に何か余計な事を言ってなかったかどうか　を聞き出す為だろう。
　

　だから俺は、バートが俺に寄せてくれた信頼に応える為に
“腕は立つが金に汚い馬鹿な小物”としてせいぜいみじめに狼狽してみせてやった。
俺が金を欲している理由だって向こうはとっくに調べがついているはずだから、
どこまでも自分のことしか考えてない男が、英雄を利用しようとして結局なにも得られなかった
そんな物語を紡いでみせても疑いもしないだろう。

　俺の発言を元にこれ以上あいつが権力抗争のネタにされるのも我慢がならない。
……だからどうした　と言われたらそれまでだが、それでもこれは……これは俺のちっぽけな意地だった。




　金に汚い小物風情　と存分に侮ってもらえたおかげで俺は一時間ほどで解放された。
建物から出たところで煙草に火をつけ、肺いっぱいに煙を満たし　そして吐き出す。
俺はそもそも傭兵だ。この国への忠誠心も無いし、未練は……二つあったがこれで一つになってしまった。



　そろそろ潮時かもな……そう思いながら短くなった煙草を踏み消していると
肌の露出が多い服装の女が突撃してきた。いや、これは本人としては色っぽく抱きついてきたつもりらしい。
思わず二歩程後退りしてしまったが、女は構わず懸命にシナをつくって甘い声で誘惑の言葉を投げかけてくる。
……え、これ……これで娼婦のつもりかこいつ？

　あまりの馬鹿ばかしさにスリを疑って押しのけようとすると、わき腹に硬いものが押し当てられた。

「……このまま。あたしに合わせて一緒に来てちょうだい」　

　精一杯低い声で囁く様子があまりに滑稽で、それでいてどうにも切実で……


「おいおい、随分と情熱的なレディだな。当然サービス弾んでくれるんだろ？」

　そう言いながら、今まさに女を買った客という体で歩き出してやる。
ついでとばかりに女の尻を鷲掴みに揉んでやると小さく「ひゃあ！」と声を上げたが
押し当てられてる銃口がわき腹の風通しを良くすることはなかった。