ENo.0123　Rache

【破損したボイスレコーダーに録音された一部】

────
【数分の沈黙。その後、不意にノイズがまじり始める】
【さらに数十秒後から酷い雑音で掻き消されてしまっているが、かろうじて声らしきものが聞こえる。】

【二十秒ほど続き、その後にノイズが弱まっていく。】

『───だ、──、ゆる───』

【聞こえてくるのは女の声だ。】

『わたしが ──どうしてここにいるかは わからないけれど どうしてもみつけなければいけないおとこが ──いる』

【実に平坦な声だ。未だに残っている雑音のせいか、感情の起伏が感じ取れない。】

【それからまたノイズが強まり、聞き取れなくなる。】
【女の声は聞き取れない。それでもその誰かは延々と何事かをしゃべり続け──】

【不意に、】

『ゆるさない』

【、】
【ノイ──が──ク──になっ──】

『わたしがなぜ』
『こんな……忌々しい霧の地に、』
『……どうして、…どうしてここにいるかはわからないけれど』

【────】
『どうしてもみつけなければいけないおとこが、わたしにはいる。』
『あたまのなかでずっとずっとずっとずっと』

【おん──し───、──】

『ずっと』

『殺し続けた おとこが』

【─────】
『ぜったいにおまえを』
『ゆるさない』
【、】
【ノイズが段々と強まっていく】
【声が聞き取れなくなるほど強まっても、女性はまだ何事か延々と喋っている。】
『────、』

『──』
【未だ、喋っている。】

必要最低限の整備が出来そうなドックに、パイプ椅子がふたつあるだけの簡易的な休憩所。