ENo.0124　灰桜

｢う〜、さむ……｣

男が一人、格納庫で体を震わせる。

“残像領域”ーーほとんどの時間帯が霧に覆われているこの地帯は、肌寒く、湿度が高い。男はもとより寒さが苦手であったため、領域特有の気候下での動きはぎこちなく、整備の手も止まってしまった。

男が残像領域に迷い込んだのは、半年ほど前のことだった。いつものように床につき、目が覚めたら、霧に包まれていた。外した筈の眼帯と義足を着け、洋装に一枚の羽織という出で立ちで。
夢ではないかと疑って抓った頬の痛みが、現実であることを認識させた。

霧の中を彷徨うなかウォーハイドラの存在を知り、生きる術をそこに見出した。日常の中で高めた動体視力のおかげか、なんとかライダーとなり、こうして今に至る。
基礎的な訓練と、ある程度の知識は身に付けたつもりだが、まだ自信はない。

出撃のサイレンを待つ。

吐いた息は、霧のように白かった。

残像領域の一角に建つ訓練場。
機体の制御訓練や情報交換の場としてライダーが集まる。
休憩所を兼ねた食事処を併設しているため、訓練に夢中になってお腹が空いても大丈夫。
ちなみにSasanquaとは食事処の名前なんだそうな。


〜掲示板に貼られている紙〜
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