ENo.0136　エマニュエル・スミス

おいおい冗談じゃないぞ。モスキートに満載されていた武装、やたら派手にばらまいたと思ったら、弾薬費は置き薬形式じゃないか。とんでもない額の請求が来て俺は早くもすってんてんだ。フィガロと連絡が取れたのが不幸中の幸いか……

それに、いくつか分かった事もあった。ここは残像領域と呼ばれる場所であること。俺がモスキートと呼んでるこの機体はハイドラという名前があること。ハイドラ乗りと呼ばれるライダーは、この残像領域に点在する貴重な物資を巡って争っていること。

儲かるからスポンサーも居るんだってな。ちなみに俺が派手にぶっ放したのは焼夷弾だそうだ。恐縮だね。この『モスキート』、一見すると戦闘用のハイドラには見えない特徴が多い。第一にこのアースオーガ。射撃武器しか搭載されていなかったこのハイドラにはちぐはぐな装備だ。恐らく工事用の機体を改造したものだろう。

オーナーが駐車していたとしたら俺はそれを盗んだ不届き者だという事になるが……今のところ声を挙げている奴は居ないな。まあそういうことだ。俺はこの世界の物資やらスポンサー同士の代理戦争には興味がない。だが、残像領域を脱出し、オペレーションを遂行するには便利な物資が多い事もまた事実だ。
焼夷弾は……俺の趣味じゃないけどな。アレは派手すぎる。爆破ってのはもっとこう、静かに、速やかに、悟られることなく行われるものだ。こんな仕事に美学を求めるのもどうかとは思うが、だからこそポリシーってのは大事だ。ホーキンスのおっさんもそう言ってた。


……フィガロが無事だったのは本当に不幸中の幸いだったな。あいつはまだ若い。まだあいつの番じゃあないんだ。それにあいつには才能がある。お偉いさん方が言ってた特殊能力ってのも勿論あるが……俺が注目しているのはそういうところとはまた違った素質だ。ミルドレッドやイジグロにもそういったところはあって、だからこそ生き残れているわけだが……フィガロのそれはまた格別だな。だがいまひとつ場数が足りていない。あいつがこなれてくるまでは、俺達がカバーする必要がある。先輩だから後輩だからってハナシじゃあない。それが役割で、それがチームメイトで、俺達はお互いに信じているってハナシだ。

俺は……おそらくこの残像領域からは生きて帰れないだろうな。いや、オペレーションは必ず遂行する。死ぬ気だってないさ。だが、もし仮に次が来るとしたら……その時は俺の番だってことさ。恐縮だが……そういうもんだ。ホーキンスもそう言ってた。フィガロの前じゃ言わないようにしないとな。あいつはまだ若いから、そこんとこがまだ理解できていない。まあ、あの歳からあんまりにも達観してたらそれはそれで問題なんだが。

だいぶ興奮しているみたいだな。俺らしくもない。こういうセンチな気分になると、昔こなしたオペレーションの事をやけに思い出すんだ。あの妙な花に寄生されたガキ、元気してりゃいいんだが。あの一件からフィガロみたいな特殊能力者の抜擢が本格化したそうだな。

俺は思うんだが、特殊能力ってのは一種の呪いだ。勿論自分がどう思っているかとか、周りが祝福しているかとか、そういった側面が強い事も確かだが、持っているだけで何らかの責任が問われる事もまた事実だ。持たざる者のやっかみに聞こえるかもしれないけどな。しかし実際のところ、それによって得られる全能感なんてものは、ドラッグから得られるそれよりかは幾分かリアルで粗悪なんだと思うぜ。まあ……クロコダイルみたいな作りが粗悪なドラッグよりかは、幾分か……いや、だいぶマシだけどな。

マノ社って連中に声をかけられたお陰で、明日からは随分と良い情報が手に入りそうだ。どうやらハイドラに乗って戦場へ出るそうだ。どこへいくかは……スポンサーとかによっても違うだろうけどな。まあ俺が気にかけてるポイントにも何人か来るだろう。ハイドラ戦に関して俺はズブの素人だ。こうなるともう特殊部隊だとか一般人だとかそういう肩書きは意味を成さない。この機会に色々勉強させてもらって、一日も早く残像領域での生き残り方を叩き込まないとな。俺がしっかりしてりゃイジグロやミルドレッドと合流できた時もスムーズにいくだろう。

俺達はヘリボーンに失敗し、撃沈された。ガジェットの大半は失い、妙な世界で借金を負い、はっきり言って絶望的な状況だ。だが、まだ希望はある。それがこのハイドラ……『モスキート』の中にある事を、俺は何となく予感している。必ずこいつを乗りこなしてやる。オペレーションは、依然として続行中だ──

──マノ社残像領域支部は北部未踏破領域の調査に乗り出した──




「みなさんこんにちは！マノ社へようこそ！」
「僕はマノ社日常サポートAIの宿禰です。みなさんの北への調査のお手伝いをさせていただきますね！」
「まずは大規模デモ戦闘が行われるのでそちらに参加してください」