ENo.0046　ファティマ

《P.01》
　識別番号VLD-850が脱走した。よりによって定期検診の日に逃げ出すとは。
　VLD-850は今までの検診結果を見る限り、比較的大人しく従順な個体であることが判明している。その為反抗的な行動を取る可能性が限りなく低いとして、監視を怠っていたのが間違っていたようだ。
　しかし全てのVLDシリーズにはチップを埋め込んである為、VLD-850の居場所も既に割れている。他の企業に雇われているようだが、我々との契約はまだ切れておらず、現在のVLD-850の『主人』は我々のままだということを忘れたのだろうか？
　更に幸運なことに、VLD-850は既に北部の遺跡調査団への派遣が決まっている。ならば派遣先での行動は全て我々が制御してやろうか。

《P.02》
　スポンサーとなる企業と、企業によりアセンブルが異なる初期支給ハイドラの詳細を見比べる。結果、コロッセオ・レギュレータ社の格闘型ハイドラを送ることにした。VLD-850が利用しているガレージに送る前に、こちらからハイドラ宛に通信を行えるよう改造を施しておく。
　VLD-850はハイドラの制御に長け霊障適性もある個体だが、今回は霊障を活かすことを封じ索敵機として動いてもらう。このことは既に北へ派遣する前に行ったカウンセリングで伝えており、その際にVLD-850自身が索敵機を希望していることも確認している。流石に更なる抵抗はされないだろう。
　しかしまあ、スポンサーの都合上仕方はないが、調査団に加わって初めての実戦が興行試合というのは如何なものか。

【ドラゴネット社、ある社員の日記より】

――作戦会議室、あるいは各々の端末に通信が入る――



「みなさん！休暇はどうでしたか？」

「僕は本社とのデータ同期の通信確立に手間をとられて…こほん」

「休暇気分もそこそこに、今回は初めての実戦になる方も多いと思います」

「戦闘サポートこそできませんが、こういった情報の共有はお手伝いさせていただきますよ！」

「各大隊、さまざまなルートで北進するのですが、どうやら今回は会敵する相手はおおむね似たような構成のようですね」

「こちらの『戦闘ヘリ』と『テンペスト』という敵個体が強敵のようです。気を付けてくださいね」


「あ！あと連日暑い日が続いています！みなさん…とくに残像領域出身の方は日差しに気を付けましょう！帰ったら新作のアイスが待ってますよ！」