ENo.0165　ギムレット

　ＰＣのディスプレイに表示された、可も不可もない戦績。先週のデモ戦闘訓練の結果を数値化したそれは、ギムレットにため息をつかせるだけの力を持っていた。
　登場機体は幾つかのパターンに分けられた量産型で、自分と同じアセンブルのものも目視できた。機体性能による戦力差はあまりなかったということであり、つまり今回の戦績はギムレットの操縦能力がダイレクトに反映されている。

「可も不可も無く……か。　案外うまくやれていたと思ったんだがなあ。」

　落ち込んだ気分を払拭すべく、冷えたコーラの缶を開け一気にあおる。爆弾の如き炭酸の泡粒が喉で発火し、心に幾許かの清涼感をもたらした。
　酒は無い。この体の酒癖が悪いということは既に知っており、酔った結果発生しうる「誤解」を招きたくは無かったため、手元に置かないように心掛けている。炭酸飲料はギムレットにとっての手軽なリフレッシュになっていた。

「……俺よりずっと上手くやった奴が、ここには沢山いる。俺の持ち分を掠め取る連中が戦場で笑うってことだよな。」

　ギムレットは目を閉じ、現状を改めて認識する。
　ハイドラに乗る目的は、単純に金を稼ぐためだ。ハイドラは金策の手段であり、それ以上でもそれ以下でもない。あの日に自己紹介をしていた連中は愛すべき同僚かつライバル。マノ社は恩人、素晴らしい企業です。今日新しいパーツが届く。自分のために配備された『Titan』は自分好みのカスタムにゆっくりと、しかし確実に近付いていく。

「……今日からだ。今日から俺の戦いが始まるんだ。」

　空になった缶を脇へと置き、操縦桿を握る。

「パイロット：ギムレット、機体名：『Titan』、これより出撃します。」

――作戦会議室、あるいは各々の端末に通信が入る――



「みなさん！休暇はどうでしたか？」

「僕は本社とのデータ同期の通信確立に手間をとられて…こほん」

「休暇気分もそこそこに、今回は初めての実戦になる方も多いと思います」

「戦闘サポートこそできませんが、こういった情報の共有はお手伝いさせていただきますよ！」

「各大隊、さまざまなルートで北進するのですが、どうやら今回は会敵する相手はおおむね似たような構成のようですね」

「こちらの『戦闘ヘリ』と『テンペスト』という敵個体が強敵のようです。気を付けてくださいね」


「あ！あと連日暑い日が続いています！みなさん…とくに残像領域出身の方は日差しに気を付けましょう！帰ったら新作のアイスが待ってますよ！」