ENo.0146　フレースヴェルカ

飛べ。空高く。

跳べ。足遠く。

飛び込み台を蹴って。

どこまでも。


動かしている間、どこか冷静で居られる自分がそこに居た。
ほんの一瞬かすっただけで体勢を崩すような、そんな機体なのに。
わずかな見落としが全てを台無しにするような場所なのに。
たった一つすらも無い最適な動きをし続けていた気がした。
その反動は、間違いなく有った。それを自覚できた。
なのに、そうすることを選んでいた。

その結果。


「ずいぶん調子が悪そうですね。拾い食いですか」
「どうやってすればいいのかな」


頭が痛い。痛いというか、ぐらぐらする。たぶん、相対したあいつのせいもある。
時折神経を揺さぶるような波が直接響いてきた。それのせい。
それだけでは無い、とはおもうんだけどね。
とはいえ、無理はするなって言う事なんだろうけど。それくらいなら。
命が助かるなら、助かる分だけ無理ができるってことなんだろう。多分。

相変わらず、よくわからない武装を使用してるのは確か。
実際、それが結構有効なのも確か。
もっと言うと、それを使ってるライダーが結構いる事も。
好んで使ってるのもいる……らしい。


「それで。どんな気分でしたか。地獄の釜の飛び込み台」
「思ったより狭かった」


他の戦場がどうだったかは知らない。割と必死だったから。
でも、実際飛び込んでみてからわかった。

ライダーは、思ったより、強い。わたし以外。

あまり周りを見ている暇はなかったし、余裕もなかった。
けれど、周りを見ていなくても周りからの横やりが無かったのなら。
役目を果たしていた、そういうことなのだから。


「……あれ、つまりわたし何もしてないんじゃないかな」
「ほう、ニートはいいですよ」
「違う」


けしてニートじゃないよ。
証拠に、今見上げれば仕事の証がそこに居る。
地獄のような場所を抜けるために一番力を貸してくれた、ハイドラがいる。
……無茶ばっかりさせたなぁ。本当に。


「フレースヴェルカ」


彼女はわたしを呼んだ。


「空は、綺麗ですよ」


そう、言った。
けれど、わたしは。私は。


「見た事無いから、知らないよ」


そういうしかなかった。

壊れてしまった、もはや時代遅れ、彼氏にフラれた腹いせ。
あれこれの理由で積もったジャンク品の山の中。
打ち捨てられたようで、実はとても手入れの行き届いた三段櫂船型ハイドラが一機。
ある一人の幽霊が、そこで暮らしているのだ。


「メシと寝床？必要なら出すけどオレあんま料理上手くねえよ」