ENo.0030　ガブリエラ・ストークス

　燃え墜ちていく様を見るのは愉しかった。
　霧を暴くたびに清々した。
　破壊することの悦びは何にも代えがたい。
　口づけを交わすことはきっとこんな心地なのだろう。何かを食べるということもまた。
　私はハイドラ『ホルン・パラドクス』を駆り、戦場に立つ。カメラとレーダーを介して世界を見、電波に乗せて言葉を届ける。攻撃されて装甲が傷つけば、火だるまにされて機体随所のサーミスタがショートすればアラートが鳴る。痛みのように。変調され、復調された世界では、私は誰とも変わらずそこにいる。
　出撃を待ち望んでいなかったと言えば嘘になる。あの日幾度となく往来で消失を経験しても、自己の曖昧さ、不確かさに屈するつもりはないが、戦いの中にある充足は忘れがたい。

　ウィンドベルの接近に、レーダーがアラートを発する。
　とっさに操縦桿を切り返すが、ウィンドベルの噴出した霧が粒子ブレード『モスキート』を隠す。

　衝撃。

　霧を融かしながら振るわれた一撃は深々と装甲に突き刺さった。深刻なエラーが視聴覚を埋め尽くす。
　矢継ぎ早の衝撃は、電子DRのリーフがこちらへ放ったマイクロウェーブ。残存する装甲のほとんどがはぎ取られ、機能していることは奇跡に等しかった。
「ガブリエラ、大丈夫か」
　ソネルの声が聞こえる。
「なんとか」
　しかし、苛烈な攻撃は凌ぎきった。いくら傷ついても、生き残ればそれでいい。結ばれかけている戦場、その残りの攻撃を私は避けた。敵の位置を知らしめ、攻撃機がそれを刺す。

　作戦終了後、酷く焼けた『ホルン・パラドクス』を見て、よくこんな状態で起動していたなと心から思った。粒子防御、電子防御、十分に稼いだつもりだったし、操縦棺を耐粒のものに換装したのは正解だったろう。しかし、敵機の攻撃は激しさを増す一方だ。アセンブリングの幅が広がろうとも、敵はそれ以上に激しい攻撃を放つ。撃墜されるのも、そう遠くないかもしれない。
　身震いする。
　それでも、私はもう戦場を待ち遠しく思っていた。どことなく、その期待はあまりいいものではない、とも思った。それに従い続ければ、いつかこの領域での作戦が終了したとき、私はどうなるのだろうか。ハイドライダーである以外のガブリエラ・ストークスを、確立しなければいけなかった。

　そのために、私はガブリエラ・ストークスについて――つまりは、かつて残像領域にいたとされるガブリエラ・ストークス、そしてガブリエラ・α=8・ストークスについて私は調べることにした。
　それについて知ることは、きっと何か意味があることだろう。私に想い出はなく、経験はなく……しかし、私が生まれる至った過去はあるはずだ。子は親によって作られるように、物事には因果はつきものだからだ。