ENo.0130　かもめの亡霊『モーヴェ』

どうして。

なあ、どうしてだよ兄ちゃん《メーヴェ》。

どうして、オレは『勝てない』？



「…いつになったら」

決して少なくはない報酬。でもオレはこんなんじゃ、満足できない。

「オレは勝てるんだ、クソ兄貴。お前に」

…焦っちまったんだと思う。新しい兄ちゃんの前で張り切りたかったのかもしれないし、メーヴェを超えてみせるという気持ちは少しも変わんねえし。

「クソ兄貴より高い場所へ」

ハイドラライダーに焦りは禁物。焦りと油断は、驚くほど簡単に判断力を奪い、命を刈り取る。
それをちゃあんと理解すんのが、オレ『たち』は少し遅かったし、今ですら、分かってなかった。

「いつ行ける？」

オレに時間は腐るほどあるのに。それでもいつも、出撃の日までどこか焦燥感を抱えてアセンブルしてるオレがいる。

『サラミス』は兄ちゃんのハイドラより速く走れない。
かつての『カロン丸』よりも装甲は薄く、避ける努力を少しでも怠れば…今回の通り。
避けるったって限度がある。なら…

俺は、どの弾も刃も届かない高い場所へ飛ぼう、カモメらしく。
兄ちゃんが飛べるのかどうかは知らない、けど。そもそも鳥なのかどうかアヤシイ。

今日は誰よりも高く飛べるだろうか、オレと貴女《オマエ》で。

壊れてしまった、もはや時代遅れ、彼氏にフラれた腹いせ。
あれこれの理由で積もったジャンク品の山の中。
打ち捨てられたようで、実はとても手入れの行き届いた三段櫂船型ハイドラが一機。
ある一人の幽霊が、そこで暮らしているのだ。


「メシと寝床？必要なら出すけどオレあんま料理上手くねえよ」