ENo.0124　灰桜

格納庫に入ると、ちょうど最終確認を終えたシィが振り返り、灰桜の姿を認めた。

｢灰桜さん！メンテナンス、終わりましたよ｣
｢ああ、ありがとう｣

入ってもいいかと操縦棺を指差してシィに尋ねると、えっ、と驚いたような声を上げた。

｢何か気になる事でもありましたか？あっ、まさか、これから外に出るとかそんな、遺跡まで結構距離が｣
｢大丈夫だよ、そんな事しないから。ちょっとメッセージの確認するだけ｣
｢はあ……そうですか｣

持っていた端末を見せて言えば、シィは小さく息を吐いた。
シィの心配性にも困ったものだ。高慢であるよりずっとマシだが。
何かあれば呼んでください、と言ってシィは格納庫を出て行った。

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操縦棺の中に座る。さらさらと水の流れる音と、規則正しい心音。それ以外は何もない、静謐な空間。このままずっと居たら眠ってしまうだろう。
(まあ、それが心地よいから、つい来ちゃうんだけどね)

端末で企業からのメッセージを確認中、視界にまた一つ光が増えた。

｢……何だこれ｣

灰桜は目を見張った。勝手にモニターが起動したうえ、お構いなしにメッセージが表示されていく。差出人は不明。しかし、
(世界の救命……)
それが先の戦場で聞いており、且つ敵機が放った言葉である事を思い出すまでにそう時間はかからなかった。
――破壊したはずの兵器が今も『生きている』？

シルウェストリス航空の最新鋭部隊の壊滅、不測の事態を案じる企業、ハイドラを脅威と見なす未踏の遺跡の兵器。
灰桜は、きな臭さを感じずにはいられなかった。

残像領域、異世界の出身問わず、ハイドラライダーへの各種サービス・サポートを行う小さな企業。
格納庫や整備士の配備もさることながら、ライダーの衣食住も十分なものを提供している。
訓練場を併設しているため、体の鈍りもそこまで心配ないだろう。