ENo.0378　Annihilator

「どもどもー、C.R.デリバリーでーす」

いつものように廃ドックへと現れたのは、コロッセオレギュレータ社傘下の食品配達サービス――に、扮したO.D.D.S.の諜報員、ディヴィン・ニコラスだ。
現地では最低限の装備で任務を遂行する僕たちエージェントは、彼の橋渡し無くしては本部との情報交換を行うことが出来ない。
週に一度の定期便という名目で此処へ足を運んで貰っているのも、定期報告と彼の収集した情報を共有して貰う為だった。

「ディヴィン君、いらっしゃいませー」

「待ってましたよー。お伝えしたい事も聞きたい事も沢山ありますので！」

機械油で汚れた顔を手で拭いながら、レニがいつもの笑顔で出迎えた。

「やーやーレニちゃん！　元気そうで何より。仮面の旦那も……ま、いつも通りか」

ひらひらと手を振って笑いかけると、ディヴィンは運んできた食料をてきぱきとコンテナから下ろしていく。

「御託はいい。早速本題に入ってもらおうか、配達屋」

「やれやれ、旦那はせっかちでいけないな。勿論、ちゃんと言われた通りに調査してきましたぜ。
　旦那やレニちゃんに届いた差出人不明のメッセージ……その出所をね」

前回の定期便で調査を依頼したのは、出所不明の通信をばら撒く謎のハイドラについてだった。
企業を跨いで不審な行動をするあの存在に、妙な違和感を感じたのだ。

「あのメッセージは、遺跡を調査している各所のハイドラライダーに届けられているようですね。
　方法は不明ですが、出所自体はレニとダイナさんも掴みかけていたのです。答え合わせをいたしましょう！」

「メッセージの送信者は――≪ΜΕΛΠΟΜΕΝΗ≫」

にやりと笑ってディヴィンは手に持っていたホログラフ装置を起動し、粗い映像を浮かび上がらせる。
その姿は、僕たちも見知ったものだった。

「遺跡の守護者、デバステイター……か」

「前線で戦っていた旦那たちは既に出会っている筈だよな。遺跡を護る『番兵（センチネル）』でありながら、
『領域殲滅兵器（デバステイター）』である歪つな存在……こいつはどうやら、俺たちが思っていたよりもずっと重要な存在みたいなんだ」

「世界の根幹に関わる存在。各企業が、北の遺跡へ執着する理由ですね。
　破壊する事が世界の救済になる、破壊する事で世界が滅びる。方針と主張、ばらばらです。どちらが正しいんでしょうね」

「白兎のブレアは言っていた。この残像領域は偽りの世界であり、真の世界は暗い海の底なのだと。そして、いずれこの偽りの世界は消滅する……とも」

戦場に出る前に、白兎生体化学で聞いた話を思い出していた。
ブレアはただの狂人ではない。全てが真実ではなくとも、その言葉にはO.D.D.S.にとって重要な意味があった。

「メルポメネーと企業、どちらの言葉が真実かはともかく、暗黒を宿したオーブ――『シルエット・レガリア』が残像領域にあるものを真の世界へ時空転移させる為の装置だというのなら、僕たちが追っていたものはまさにその装置だろう」

警戒すべきは最早白兎だけではない。最悪の場合、他の企業や雇われのハイドラライダーたちさえも敵に回さなければならないかもしれないのだ。

「オーブを追い、北の遺跡を目指す以上、デバステイターとの戦いは、今後も避けられないと言う事ですよね。
　通常の火器は無効化されるようですので、何か対策を考えなくては」

「シルウェストリスの『グレムリン』の噂もある。俺の方でもまた色々調べてみますよ。レニちゃん、気をつけてね」

僕の報告書を受け取ると、ディヴィンは再びC.R.デリバリーの配達員としての業務に戻っていく。
五大企業と遺跡の番兵を巡る因縁は、想像以上に根深く複雑なものだった。
立ち込める暗雲に嫌な予感を感じながら、僕は再び戦禍に身を投じるべく、ドックを後にした。