ENo.0378　Annihilator

「お互い、なんとか生きているようだな」

いつもの廃ドックに帰還した僕たちは、互いの生存を確認し僅かばかりの安寧を手に入れた。
デバステイター・センチネルとの戦闘はまさに熾烈を極めるものだった。
『エンサイクロペディア・フラグメント』――大量のレーダーによって戦場の情報を集約し演算することで超常現象を発するその力こそが勝利の鍵であったことは想像に難くない。
土壇場でパーツを換装していなければ、僕も彼女も生きて帰ることはなかっただろう。

「夜通しで整備し直した甲斐がありましたね！ ダイナさんも手伝って下さってありがとうございました！」

「礼を言うのは僕の方だ。急な申し出を二つ返事で受け入れてもらったからこそ、今回の戦果が挙げられたんだ」

「突然意見を聞かれた時は吃驚でしたが、何やら事情がおありのようだったので。
　搭載する装備の情報は確かだったとはいえ、正直動作テストもなくぶっつけでいどむのは不安だったんです。何とかなって良かったです……」

「僕たちはこれまで、任務に最適な機体を組み上げてきたつもりだった。だが、その思い込み自体が間違いだったんだ」
「生存性を高めるために大量の装甲に身を包む。機体の重量を極限まで減らして一度の被弾も許されない高機動機にする。それらは解答の一つではあった。問題は、パイロットとの相性だった。……君が暖めてきたあの仕様こそが、答えだったというわけだ」

パイロット自身の長所を最大限に活かすという彼女の構想は、ただの絵空事ではなかった。
堅実な戦いに適した重量級の機体に飛行装置を複数搭載することで、『仲間を護りながら高速機動によって敵機を殲滅する』というコンセプトを実現した『エヴァーナイトⅡ』。
そして彼女の『霧神くん』は逆に装甲板を捨て、『大量のレーダーを積みつつ機動性を確保し的確な指示を部隊へ与え続け支援に徹する』支援特化機体と生まれ変わらせたのだ。

「ダイナさんは護衛が得意ですし、レニは言わずもがな、ですしね！ レニ、お役に立ててとっても嬉しいです。
　あちらこちらきな臭いですし、これで本来の任務の方も進展があるといいんですけど…」

「シルウェストリスの『フィズ』についても気になるが、早い所マテリアルベルトの『モータージフーガ』や白兎の『シャッテンフェー』を抑える必要があるだろう。
　貢献を認められれば、情報と技術を手に入れることも不可能ではないはずだ。これまでの奴らの動きを見るに、企業連盟という相互監視の上ではハイドラライダーとの契約は無碍に出来ないようだからな」

金で信頼が買えるというのなら安いものだ。
変に情に訴えかける必要が無い分、随分とやり易い。

「全部いっぺんにと言うわけにはいかないので、取り敢えずレニはコロッセオと白兎に的を絞ってみますね。シルウェストの事はディヴィン君に聞いてみましょう。そろそろ定期の時間ですよね」

「僕の方ではマテリアルベルトも調べてみよう。ヒルコは……今のところは放っておいても問題は無さそうだ」

そろそろ、大きく趨勢が傾く頃かもしれない。そんなことを考えながら、僕はミーティングを切り上げて廃ドックを後にした。