ENo.0038　『至極の悪夢』ハンブルグ・ダーウェン

十二週目。
刻々と、第二の要塞戦が近づいている。恐らくは、リソスフェアよりも熾烈で過酷な戦いになるだろう。
自分のやる事は変わらない。…昔はそれで、数多くの味方を護ることが出来た。1人で数多を潰し、悪夢と恐れられたあの頃は。

今、は。…少なくとも、向こう見ずの無鉄砲な若造たちすら護れてないのは、確かなことだ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―――ハンブルグ・ダーウェン『残像記』より





※※※





日誌を書き終えたダーウェンは、デスクの中から一つの写真を取り出した。
写真に写っているのは、少し今より若く見えるダーウェンと、五人の男女。…最後に撮った、家族写真だった。
ダーウェンには妻と、4人の子供がいた。妻は家と共に空襲で焼かれ、次女は市街地戦闘に巻き込まれて死に、次男は管制官として乗っていた飛行戦艦と共に海に沈んだ。
・・・そして、長男は。

ダーウェン
「…嘘ついた。昔も向こう見ずの若いのなんざ、護れた試しがなかったな。…なあ、リエル」

ヘリパイロットだった長男リエルは、ダーウェンの目の前で撃墜された。一撃で、木っ端微塵に。
ヘリパイロットになりたいと言った、彼の日のリエル。猛反対した妻を押し切ったのは、他ならぬダーウェンだった。

ダーウェン
「…だって、なあ。俺と同じ眼されちゃあ、どうしようもねえよ」

自分も、親の反対を振り切って空軍に入った。その動機なんて、ただの憧れで…しかし、それは何よりも大事な理由だった。あの日のリエルも同じ眼をしていたからこそ、色んなものを押し殺して認めた。…例え前線に出ようとも、自分が出れば無事でいられるだろうと。
あの頃から、自分は衰えていった。そして今、リエルと同じ眼をして突っ込んでいく無鉄砲共が死んでいくのにも、何も出来なくて。

ダーウェン
「ままならねえもんだな。何のために矢面に立ってんのか分からねえよ。…でも、それしか出来ねえからな。不甲斐ない親父になっちまったもんだよ」

写真を見ながら語る姿は、今にも霧に紛れて消えてしまいそうなほどに小さかった。
やがて、写真を置いて立ち上がった。寝室に向かう直前、小さな決意を零して。

ダーウェン
「…だけどお前みたいなことが起きるのは、もうこりごりだ。不甲斐ない親父にはなったが…どこまでも足搔いてやらぁな」

例え自らが泥に塗れようと、地を這おうとも。
全ては味方の生存のために。全ては若者に未来を掴ませるために。かつて悪夢と呼ばれた男は、そう決意した。

Cadenas射撃部になりました。