ENo.0076　マリエッタ

「い、ったた……」

まだ本調子ではないのは歳を取った証拠だろうか。
動けば骨が音を立てて軋む。傷は全て塞がった。“再生”した。

「そういう種族だから良いものの……生身の人間でしたら死んでますよ。」

わかってる。わかってるさ。
だからこそ、身体の損傷くらい、と軽々しく思ってしまうのだろうけれど。
今まで生きてきた中で手足なんて何本吹っ飛んだか定かじゃない。
それはノエルも良く知っている事で。

「全く。無茶をするのは幼い頃から何も変わらない。」
「無茶なんてしないさ。危なくなれば退く。」
「それは最近のおはなしではありませんか。逃げる道を多く選ぶようになったのは、彼と別れた後の“捻じれた貴方”だ」

「最初は勝てるわけがない魔物への捨て身の攻撃、真正面から向かってくる野盗へわざと的になり、捕らえるなんて事もありましたっけ。」
「馬車に轢かれそうになった小動物、争いの末高所から落ちそうになった少年の身代わり、本棚の下敷きになりそうだった弟君、それから……」

「おい。それ絶対他言するなよ。特にレナには。絶対。」

念を押して睨み付ければ、「誰が僕しか知らないマリエッタ嬢の姿を他言するものか。」と優越感に浸った表情でそう返って来る。
自分の身体くらい、なんて言えばきっとアイツはなんて言うだろうか。怒るだろうか。それとも……。

「……というか君、さり気なく僕の事“捻じれてる”とか言ってるね？」

思い出して。……まあ、間違っちゃいないから何とも、だけれど。
兎にも角にも。

「暫くしっかりとした整備は出来そうにない。……ノエル、お願いしていいかい？」

「御意。主のご命令とあらば、このノエル、全身全霊を懸けて」


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献身的に介抱してくれるこの相棒……幽霊少女は、一体何を思って、何を考えているのだろう。
コイツの事だから、そこまで複雑な事は考えてはいないんだろうけれど。

お互いぎゃあぎゃあと喚いて喧嘩するような仲だったのが、今じゃこれだ。
煩くて敵わなくて、早く引き離したかった、のに。
今は傍に居ないと不安になる。

「……居心地がいいんだよな」

ぽそ、と呟けば「なんか言ったかー？」なんて声が返って来て。
そんな声に「なんでもない」と返して。気が付けば顔が笑っていて。

ああ、今でこんななのに……この先、ずっと先、僕は一体コイツの事をどう思う様になってしまうんだろう。
その時コイツは、僕の事をどう思っているのだろう。

なんて、取り留めのない事を横になったまま考えるのである。