ENo.0079　レナンティス

「レナは、焼きもちって妬いたことってある？」
「は？」

真剣な表情と突拍子もない発言内容のギャップが激し過ぎて見事に二の句が継げなかった。
「……うーん。やっぱりそういう反応になるかあ。
ええと、それでなんだけど、僕は昔はアイツにそれなりに嫉妬していたし、今回の旅でも、心のすみっこでほんのちょっぴりなんだけど、おもしろくないって思ってる部分はあるんだよね。
あ、もちろんマリエッタさんはほんといい人だと思ってるし、ましてやレナとの仲を壊そうだなんてこれっぽっちも思ってるわけじゃないんだよ！？　それは誤解しないで！！」
自分で自分の言葉に慌てて、わてわてと両手を振る。
「なんだろうなあ、焼きもちって言うほどの気持ちじゃないのかもしれないけど。
僕の方が一緒にいた期間は長いはずなのになぁ、マリエッタさんの方がよっぽどレナのことをよく理解してるよなぁって気付いて、そんな自分にちょっともやもやするぐらい。
レナはそういうの、思っても表には出さないような気がするけど、どうなのかなと思って」
「妬いてる様に見える？」

例えば、あの、使い魔らしき蝙蝠とか。

「ううん全く、これっぽっちも。でも僕は自慢じゃないけどそういうの凄く鈍いから全然当てにならないよ！」
堂々とした宣言に少し笑って少し冷めて来たカプチーノを一口飲んで考える。
「オレ様もそういう心算は全くないんだけど、自覚がないから質が悪いって言われたりするので本当の所は解ンネエなあ」
自分で言っておきながら本当なんてどこにあるのだろうと考える。どこかにあると言える様な代物ではないから本当などと解った様な解らない様な名前が付いているのかもしれないが。
「そっか。ありがとう。
　……レナは昔からずっと変わらないよね。わからないことはわからないって、きちんと答えてくれる」
「いやいや、わからないまま放り投げてるだけじゃネエかな」
「えー、そうかなあ」
ビスケットの最後の欠片をココアに放り込んで一緒に飲み乾すと、藤色の瞳が細められる。
「そもそも、そういうのは無い方がいいんじゃネエの。嫉妬とか、悪魔のひとつに数えられる大罪だぜ？」
「あははそうなんだ。そうだよねえ。でも、僕だったら
　……ちょっとは、嫉妬して欲しいかな。なーんて」
「そんなもんかねえ……」
これ以上冷めると香りが飛んでただの黒くて苦い水になってしまうカプチーノの最後の一口を飲み込むと、ほぅと苦い吐息が零れた。

。〇（嫉妬してほしい、かなァ……”彼女”は）

がらくたと、猫と、幽霊と。
特に何もしません。まったり。