ENo.0535　クロノワール・ナイン

――前回に引き続き、戦果は"散々"といっていいものだった。システムの変更ミス、いや、正確には変更のミスではない。自らの判断のミスだ、スターナイトに求めるものではなく、自分と相方である弐式の判断ミスだ。……いや、その結果相方があそこまで戦果を得て、そして今回も結果を出せた所「良い囮」と「チームの勝利」には貢献できている、とは考えられる。悪くはない、悪くはないのだが。

「私が納得できるか、といえば別よね」

思考を回していた中の苛立ちを隠せず、手にしていたタブレットを脱衣所のタオルお気に投げる。防水に耐衝撃はかなり気を使ってる一品なので傷一つもないが、少しだけ後悔する。ここで液晶が割れればコトだし、次のコロッセオに影響が出る。……と言っても、珍しく2週間後と休息の時間はたっぷりある、なんとでもなるか。そういえばそのオフを活かしてリイア・イオス＝エイジ――リイアとこのあと食事会だ、なんて思考をそらし、落ち着きを取り戻す。待ち合わせは私の家だ、外でもいいけれど、霧が鬱陶しいのだ、ここのあたりは。

「……ああ、もう、何をやってるのかしら」

バスローブを身に纏い、投げ捨てたタブレットを手に取る。

「モノにあたるなんて二流ね。
　Dr.に良いところを見せられなくて悔いている？
　二度も死の感覚は味わいたくない？
　……どちらにせよ、精神的なストレス、ね」

「……お風呂と、このあとのスイーツ巡り。
　良い息抜きになると良いのだけど……と？」

手に取ったタイミングで、タブレットが揺れる。送信者は――企業連盟・コロッセオから。つまりこれは

「次回の対戦相手ね、ようやく決まったというところかしら」

「対戦相手は――うげぇ、今度はDr.が相手？
　味方、敵、味方と来てまた敵とはついてないわね……。
　ほかはヒメリアス、ラキア・パラミダス、ファイブカード……リー・インまで？」
　
やれやれ、重すぎないかしら、と相手を眺めてため息を一つ。
あげていないが緋色の狐は「何をしてくるかわからない」強敵と噂を聞くし、例の「死にたがり」……いえ、"苗床"の佐々神、フギン＝ムニンは大分仲間として動いていたが、今回が初の敵かしら？と思いながら、そっと自分のチームを確認するためスクロールする。

「へぇ、リイアとは味方なのね。……ルカも居る、悪くないんじゃない？」

名簿の名前をチェックしていく。他にも比良坂とうま、クビツァに加湿器、クワゥチー、ゴリラ……相手も名だたるメンバーだが、こちらも負けていないな、と直感的に判断する。これは面白くなりそうだな、と思っていたところに"あってはならない名前"を見つけ、くらり、と身体の力が抜け崩れ落ちる。

「……は、ぁ……っ、な、ん……で……」

そこには――クロノワール・ナインの名前が、2つあった。

「ち、が、う……私は死んでなんか――」

フラッシュバックするのは、死の光景。
タンクに乗り、前線を走り、相方のためにも攻撃を受け続けた、あの戦場。
前準備で万全にしていた、電子防御は削られきり、ついには避けきれずに――電子の一撃を、直接コックピットに叩き込まれたあの光景を。
自身の体が、電気に"焼かれて"まるでモルモットのように、ゴミのように、死んで、燃えて、蒸発、し、て……

「―――っ、う、ぷ、お……ぇ……」

その場で崩れ落ち、口からは胃液を吐く。
過呼吸が止まらない、冷静な思考に戻れない、お風呂に入ったのに台無しだな、そろそろリイアが来る頃合いだった気がする、なんてどこか冷静な私は考えて。

意識を、落とした。

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……どこからか、インターホンがなる音が聞こえる……。
でも、それはもう遠く、自分の体から聞ける音ではないような気が、して。





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……コロッセオ当日を迎えたが、どうにも、やはり、いつもの調子は出ない。何時もなら、誰かが墜ちた時、落とせた時、通信があった時、活躍した時になんか言うことをキメているけれど、今日の私は――《絶対に荒れる》。
コックピットに入った私は、そっと、広域通信のスイッチを――切ったのであった。

星を撃ち落とすように――
そして、一瞬の流れ星のように。


我らは撃つ。