ENo.0592　アンドリュー・ツォン

ストラトスフェアから、一週間が経った。

結論から言えば、要塞攻略戦は俺たちの圧勝だった。その日のために装備を整え、技を磨いてきたハイドラライダーたちの猛攻の前には、さしものミサイルキャリアーも形無しだった。敵の機体は次々に撃墜され、破壊されていった。

無残な光景ではあったが、敵が全て無人機なのがせめてもの救いだ。戦場では、敵のことを可哀想だなんて言ってられない。やらなきゃ、こっちがやられる。

他のライダーたちと同じく、俺も全力で戦った。死闘だった。レーダーを積み込んだ俺は味方の援護に回った俺は索敵をフル稼働させ、怪我人がいればすぐに飛んでいって救護に当たった。

初対面のライダーには不審がられ、中には混乱したのか俺の姿を見るなり「変態だ！！！」と叫んで粒子スピアやパイルを撃ち込んでくる者もいた。可哀想に。戦場という極度の緊張に晒される中で、すっかり理性を失ってしまい、敵も味方もわからなくなってしまったのだろう。やはり憎むべきは戦争だ。

そんな哀れなライダーに、俺はいつも通り、画像通信でこのナース服を着た姿を見せた。そうして「うわっ」と小さく叫んだきり急に静かになったライダーに、両手を広げて微笑みながら語りかけた。

「落ち着いてください……俺は、あなたの敵ではありません。俺は戦場の白衣の天使、アンドリュー・ツォンです！」

このライダーは、その後も落ち着いて俺の救護を受けてくれた。ナース服、それは博愛の印だ。この姿を見てなお救護に抵抗したライターを、俺は知らない。

幸いなことに、ストラトスフェアでは俺のブロックからは死人は一人も出なかった。同じブロックに配属されたライダーたちの、日頃のたゆまぬ努力の賜物だろう。戦場で生き残ること。敵を倒すより、基地を攻略するより、これが何より難しい。

戦場を後にしてパイロットスーツを脱いだ後、肩を叩いて喜び合うライダーたちを見守りながら、俺は一人ナース服姿で微笑んだ。仲間たちと、生きて帰ってくること。このナース服でそのささやかな手助けが出来たことが、戦果よりも何よりも嬉しかった。

※

要塞攻略戦において、俺がこれだけ闊達に立ち回ることができたのは、全てある人物のおかげだった。

先週、すっかりやる気をなくした俺は、マーケットをとぼとぼと歩いていた。もう帰ろうかな。要塞戦も休もう。そう思ったちょうどときに、俺はある品物が市場に出品されているのを見つけたのだ。

エッチな動画(黒髪ボイン)。

あの、俺が残像領域での心の師匠と崇める、コルヴス・コラクスのエッチな動画シリーズの最新作だった。

「ええーーーーっ！！！！」

俺は思わず叫んで転び、強かに尻もちをついた。嘘でしょ、知らなかった。コルヴス師匠、今回新作あったの！？！？

スペースには既に長蛇の列が出来ていて、俺は自分の情報収集不足を恨んで歯噛みした。この列に並ぶ人々は皆、最新作のエッチな動画を求めるライダーたちの列だろう。完全に出遅れてしまった。

そんな、コルヴス師匠の新刊あるって知ってたら、マーケットの会場の外で徹夜で並んだし！！！

後悔に咽んでいても新刊は手に入らない。俺は急いで待機列に並び、最後尾の札を持った。

後は、ひたすら並んで待つ。

……。

………。

………………。

…………………………来た！俺の番だ！

俺は勢い込んで飛び出し、コルヴス師匠の手を掴んだ。

「あのっ、俺その、すっごいファンで！ほんと楽しみにしてて！前回の作品もすっごい好きで！ほんとにすごい好きで！とにかく師匠の作品をめちゃくちゃ楽しみにしてて！

ふぅ～～～っはー……尊い……巨乳を見守る壁になりたい……。なんかその、もう、この、語彙力が無くなる感じ……。あっすみません、ちょっと新作の中身見てもいいですか！？

失礼します！あっ……いや、これはその……はー！いや、なるほどね！？あっそこでそうなって……は～～～そうなるわけねなるほどなるほど、すごい……すごい理解が深まる……宇宙の深みに繋がっていく……巨乳は宇宙……。

っはー……。

いやもうほんと……。

無理……。

……好き……。」

一気にまくし立ててる間に、気付いたら周りから人がいなくなっていた。

ついでに、かたく握手をしていたはずのコルヴス師匠もどこかに消え失せていた。

後には、新作エロ動画と俺だけが残った。

※

かくして、俺は新しいエロ動画を手に入れた。

新作のエロ動画は、ほんともうすごかった。宇宙の深みとか、大地の深淵さとか、そういうなんか深いものに繋がっていた。見るだけで体の内側からパワーがみなぎってきた。

だから、俺が要塞攻略戦でここまで実力を発揮できたのは新作エロ動画のおかげ、ひいてはコルヴス師匠のおかげなのだ。コルヴス師匠がいなかったら、俺は要塞戦で戦果を上げるどころか、参加しようとすら思わなかっただろう。全ては師匠のおかげなのだ。コルヴス師匠さまさまである。

はー……。

無理。好き。