ENo.0612　P・ドロレス

　　　　　４

『エリー、エリー、エリー、エリー』
　頭の中で何度も何度も思い出す。
　忘れないためにはくり返すことだった。
『エリー』
　顔は残しておける。
　不完全でも写真があるから。
　角度と微笑みの違ういくつもの残像。
　脳みそにこびりつく思い出というものは大部分、光と映像からなっている。
　だから、その仕種や癖は覚えていられる。
『どうしたの、エリー』
　問題は声で――くそっ、こいつはずっと難しい、どうしたって全部をとってはおけなかった。
　少なくとも自分には、ただの音ではない声を、切りとって覚えておくことはひどく難しいことだった。
　言われた言葉、向けられた意味、その内容は覚えていられても。
　一字一句、歌うように唱える声ばかりは……。
　年を経るごとに響きは欠け、いまではもうたったひとつ。
　宛てもなく続く時間の暗闇のなかに、宝石のように輝く言葉。
　あの日最後に私を呼ぶ声。
　ここに来てからどのくらい経った？　覚えてなかった。日付も時間も、ここでは大した意味をなさない。ただ自分がここにいて、毎日が過ぎていく。過ぎていくことだけを知っていれば、それでよかった。
　新しく借りたガレージはがらんとしていた。必要なものは揃っていたし、特に何か問題があるわけじゃない。それでも、ここは少しうつろな場所だった。（しかしそうでなければなかに何かを詰めることはできない）私は《ネリールース》に手を触れる。大して意味のないしぐさ。《ネリールース》は眠っている――まだずっと。《ネリールース》の中身も、この場所と同じくらい、空っぽのままだった。
　母さんのことを、誰かに話したことはない。自分でこうと決めたことを、人に莫迦にされることほど莫迦々々しいことはない。何を言われたところで結局、私はこうするしかなかったし――これをやり続けるほかに、自分を保つ方法はないとわかっていたから。
《アルファ・ラルファ》には色々なものが集まってきた。役に立つこと、役立たないこと、何もかも取り混ぜて。霊とは何か。（肉体、その四肢に流れる、微細な電気信号のことなのだという）霊障とは？（ときには死後、それが中空へとどまり続けることもあるのだと……）それを捉えるための方法は？（霧と電磁波……大事なのはこのふたつだけ）捉えてのちそれを固定するには。（身体がいる、生きることを知らないかわりに死ぬことを知らない機械の身体が）思い出が思い出としてよみがえるための方法は？（すべてをばらばらに砕いて溶かして……あれもこれも、誰もそれも……）
　蓄えはもうほとんどない。そのために、私は《ネリールース》に乗って戦場へ行かねばならない。霧を浴び、電磁波に浸されながら。とはいえ、《ネリールース》は強い機体とは言えない――これはただ、母さんを降ろすために組み上げたハイドラなのだから。
　そろそろ時間のはずだった。出かけていく時間。《ネリールース》と……《彼女》に乗って。今日こそ《ネリールース》は母さんを見つけてくれるだろうか？　今日こそ私は母さんに会えるだろうか？　今日こそ私は……。

《廻帰財団アルファ・ラルファ》：

　残像領域にいつからか存在する、霊的研究・実験出資機関。
　霊障と霧、電磁波に関係する機体のアセンブル、およびこれらの研究・実験に対し出資を行う。

　過去には、
　溶解性搭乗機体《トラップドア》、
　生体型完全自律駆動機体《ブラックウィドウ》、
　降霊型試行機体《ネリールース》などのアセンブルに関わっている。


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《廻帰財団アルファ・ラルファ》は研究・実験のための出資機関であり、ユニオン参加者へじっさいに資金提供を行います。

　送金処理は毎更新ごとに、ENo.0612より行われます。
（出資額はそれほど高額ではありません。100～200c程度を予定していますが、変更もあるかと思います）
　
　ユニオンへの参加は、ENo.0612宛てのメッセージにて、研究・実験内容を申請してください。
　厳正なる審査ののち、返信メッセージとともに承認します。
　申請についてはP・ドロレスではなく、《廻帰財団アルファ・ラルファ》のオペレーターが対応します。


　なお、ENo.0612は毎更新、死亡許容で登録します。
　死亡した場合は同キャラクターを再登録し、再登録後は同ユニオンを設立する予定です。
　キャラクターの撃墜・死亡によってユニオンが解体されてしまった場合、それまでの参加者はユニオン再設立後に承認します。

　
　*** 整備特化 ***