ENo.0683　オスカー・ヘンズレイ

A day one～英雄と呼ばれたモノ


　わたしはかつて、英雄と呼ばれていました。
機械で出来た巨人を駆り、沢山の弾薬を撒き散らし大地を汚し
そうして一番上手に人を沢山殺せるモノとして扱われていました。

　どうしたらこんなに上手に人が殺せるのかと誰かが不思議に思ったのか
その秘密を探ろうと手足をバラバラにされ脳に針を刺され、電気を通されました。
とても痛かったな　という事しかもう覚えていません。
結局秘密はわからないまま、もはや英雄とは呼べなくなったモノになり
今は魚のように水槽を漂っています。


　わたしがかつて英雄と呼ばれていた頃、勝手に友だと思っていた男がいました。
傭兵だという彼と出会ったのは戦場で、しかも負けそうになっている時でした。
わたしは英雄なので出来るだけ仲間を逃がして出来るだけ敵を殺さなくてはいけません。
そんな時に彼は私と肩を並べて戦ってくれました。英雄に縋るモノ貶すモノ媚びるモノは多く居ましたが
わたしを…………俺を英雄ではなく人として扱う彼をとても好ましく感じていたのは確かです。

　彼には妻と娘が居たそうですが、数年前の市街戦に巻き込まれ妻を失い
娘は……戦時中の混乱もあり未だに行方不明なのだそうです。
この情勢下で人ひとりを、しかも幼子を捜索するには莫大なお金が必要でしょう。
死んでいたとしてもその証拠が欲しい……今の自分に残されたものは娘の安否を知りたい欲求だけだ
そう彼は少し寂しそうに笑っていました。


　一方のわたしは英雄なので清廉潔白でなくてはいけません。
女性絡みの醜聞は勿論の事、交友関係すら上司の了承を得られなくては同僚との雑談もままなりません。
なので、娘の安否に関わる情報を提供するかわりに正規兵として部下になれと交渉している
……そういう体で彼と会う口実を作っていました。
実際はただ酒を飲み、他愛も無い話に興じていただけです……彼の方から娘の話をする事は二度とありませんでした。


　彼があれから娘と再会出来たのか、どうなったのかはわたしにはわかりません。
今のわたしに手や足は無く、液体が満たされた槽の中に標本のように浮かぶただのモノとなっています。
ですが、脳に刺された針や様々なもののおかげで電子情報の海を自由に泳ぐことが出来るようになりました。
電子情報網を波乗りしながら、時々こうして埒も無いエッセイのようなものを刻み　電子の海にボトルメッセージよろしく
放つのを密かな楽しみにしています。これがスパムメッセージやウィルスウェアかもしれないというのに
ここまで読んでくださった方へ、ありがとうございます。