ENo.0265　ジュネリア＝ハーヴェスト

ジュネリアがリー・インの残した端末の解析を始めたのは30週目の出撃後のことだった。
あの夜の記憶は、しかしジュネリアの脳にもしっかりと焼きついていた。

だからこそあれだけ憤り、そしてあの憤りは一種の逃避に近かった。
あの男の言葉を認めたくなかった。
認めるわけにはいかなかった。

　あの不愉快な男が、自身の保身のために、惑わすために、嘲り嗤うために用意した情報だ
　そうに、違いない

あの男はジュネリアの20年をすべて否定する。

解析を進めれば進めるほどあの男の言葉が事実であるということが裏付けられていく。
端末に記録された内容と、この領域のアーカイブに―――断片的な内容だけとはいえ―――符合する過去が記録されている。
それをどこが消し去ったのかまではわからないが、あの男の言葉はひとつの歴史を語っていた。
あの男の言葉も、ましてやあの男が用意したデータも、情報も、たとえ事実に近いものが記されていようと信じるわけにはいかない。
あの男が怪しいのは紛れもない事実で、それをできるだけの能力もそういう仕事をしていた可能性もこの端末は示している。
だがもし違ったら？
たとえそれで復讐を果たしたとして、この男が違ったら？
そんな思いばかりが頭をよぎる。

そんな状態に陥っている時点でジュネリア自身が間違っていたと理解している。
無意識のうちにこの男ではないとわかっている。


ジュネリアの思考は答えのない渦の中へと吸い込まれていく。

解析と思考の渦中で、例のジル・スチュアートと戦場を同じにする機会があった。
データを見返すと同じ戦場に立つのは二度目であり、そしてその機体はまったく違うものになっていた。
事前に名前を意識していなければ気づけなかっただろう。
少し話をすることにした。それはただの八つ当たりのような、自身の感情を吐き出す先が欲しかっただけなのかもしれない。
もしくはあの男の言葉通りにしようとしたかの、どちらかだ。
あるいは、もっと直接的で一方的で卑劣な目的のためか？

ともあれ、そのなかで僚機の話題があがった。
ジュネリアにとって自分の目的の邪魔にならない相手、一時的な利害の一致する相手、仇ではないとわかる相手。
それはすべて協力者でもなければ相棒でもない。

今の僚機だってしばらく組んではいるが、僚機のマッチングに回していた費用を別のところにまわしただけに過ぎない。
互いの連絡は必要最低限の事務的なものであり、命を懸けるだのにはほど遠い関係だった。

それが違えば、これにも答えが出せたのか？
20年を間違うこともなかったのか？
そもそも、復讐は終わったのか？


答えはまだ、出ない。

ただ無言で射撃する