ENo.0580　リイア・イオス＝エイジ

『なんで正座させられてるかわかる？』
「……まあ……いや、その」

～　ハイドラ大隊　リイア私室　～

腕を組んで仁王立ちする少年──有明と
その前に正座させられている部屋の主
なんとも奇妙な絵面ができあがっていた

『言ってみて？』
「……私は」

異質で重苦しい空気の中、口を開く

「……どうせ死なないし、って思って、黙って死亡許容しました」
『うん、僕は怒ってるよね？』
「でも霧濃度が」

『でも、じゃない』

低く、冷たい声に圧されて、反論を封じられる
悪戯をして叱られている子供のように俯いてしまう

『別に死亡許容するなとは言わない。
　君の意思表示を左右する権利は僕にはない』

気圧されたまま俯いていると、不意に頭を撫でられ、そのまま抱きしめられた

『それでも、君は、それを黙ってやった』　

顔を上げれば、すぐ近くに有明の顔があって

『…………僕を、信頼してないのか』

──その表情は、霜の巨人なんかよりも、よっぽど冷たかった

──────
────
──

「……はー。」
ベッドで仰向けになり、天井へと手を伸ばす
結局こってり長々と怒られてしまった

ぽふっ、とベッドに腕を落とし、目を閉じる

──空白になった思考に、生死の境を垣間見た記憶が蘇ってくる

「何を、今更……死ぬのなんて……」

死なないと思ったから死亡許容した
死ななかった
──それでいいはずなのに

「……なんてね」

ふ、と笑ってみて、思考を締め出す

「──いつから死んでないと錯覚してたの？セリア」

ベッドから起き上がり、鏡に向かって自らの名を呟いて
鏡に映る自分と視線を合わせる
嘲笑うような微笑みを浮かべてみて、感情が仕草に出てない事を確かめて

「……霧濃度49%は……死なない訳ではない、ってとこね」
天気予報を眺め、自らの意思表示を確認する

《死なないと思ったから死亡許容する》
そうでなければ、死にに行くのは馬鹿のする事だ



──これは、逃げてる訳じゃない。