ENo.0029　猫目 黄金

件名：黄金の復帰祝いをしておけよ
From 腕無し
To 琥珀

よう兄弟、こっちは良い天気だぜ。

黄金が目を覚ましたよ。今度はしっかり、自分の意思で動けるようになってる。今じゃもう自分で戦場に出たいと言い始めるくらいだ。一ヶ月寝たきり状態で、もとから少なかった筋肉すら痩せ細ってるだろうによ。病み上がりだから無理せず寝てろと言ったんだが聞かなくてな……お前の弟、ちょっと頑固すぎねぇか？

俺がハイドラ代わりに戦場で作った機械腕なんだけどさ、それのアセンブルを残してたのがまた悪かったみてぇで……まるでおもちゃでも組むみたいに自分のハイドラをアセンブルし始めちまった。俺も散々マーケット巡りに付き合わされたよ。俺の義手は大量の紙袋吊るすためにデカいわけじゃねぇんだがな。

そう、俺の腕は殺すために作った。
なのに黄金は、もう怖がるそぶりすら見せねぇし……それどころかまるであやしてるように撫でたりするんだ。聞いたんだ。お前はなんでハイドラに乗るんだ？って。そしたらアイツは、ちょっと悩んだ後にこう答えた。

「強くなりたいから」

機体性能とか、操作技術とか、そういうモンもあるけれど、本当に強くしたいものとは違う。もっと根本的で、シンプルなものだ。誰かを守って、自分も無事で、なんとかなって良かった……そう、後になって笑い話にできるくらい。それがアイツの目標だ。
自己犠牲とは、自己満足だって、あいつはちょっと怒ったような顔してた。だけど実の兄には……両脚を代償に救ってくれたお前には、そんなこと言えなかったんだ。でもこうも言ってたよ。俺を逃がすために独りで敵に降伏したとき、本当の意味でお前の気持ちを理解したと。

ずっと守られる存在だったけど、だからこそ、守ってくれた人まで傷ついてしまった。そのことが悔しいと、そう言った。
事故のこと、親父とお袋のこと、友達とのこと……きっと今でも、お前らにとってはタブーなんだろ？わかるさ、俺だってそうさ。誰とも話さなくて良いように、誰とも会わないように独りで生きてきた。俺は今でも悔やんでる。あの場で死ねなかったことを……だから俺は今でも、こんなところで死に場所を探してる。

黄金の身体には、傷が増えたよ。
でもその傷一つ一つを全部抱え込んで、アイツは越えようとしてる。一番幼くて、一番重傷を負って、一番絶望に近かったはずのアイツが……誰よりも大きく、大人に成長しようとしてる。
俺はまだまだ子供で……今だって、この戦争が終わらなければいい、なんて不謹慎なこと考えちまう。俺が絶大な権力者とかだったら、魔王にでもなって、アイツに殺されるまで戦争するってのも悪くないと思うぜ。……いややっぱナシだな、泣くわアイツ。

--- 2017.12.15 ---





件名：Re：計画
From 黄金
To 琥珀

ハロー兄貴、メールありがとう、ちゃんと届いてるかな？

心配かけちゃったね、ごめんなさい。でも僕は元気です。いまもこうやって、ちゃんと自分の意思で兄貴のメールを見て、腕無しさんから隠れて書いて、コッソリ兄貴に送ることができるくらいには頭も身体もちゃんと動くよ。

計画については、もちろん賛成。
ただ隠しておくのもちょっと難しいかもしれない。やることもちゃんと考えないと。お前は俺の弟じゃないって、もう二度と口も利いてくれなくなるかもしれない。だけど……進まなくちゃいけないんだ。僕も、あの人も。

あのね、内緒の話しなんだけど……僕、覚えてるんだ。ほんの少しだけれど。
僕を水槽から救い出してくれた時……麻酔なのかな、全身が痺れてて、チューブが抜けたとこから変なのが流れ出てて、冷たくて、たぶん震えていたんだと思う。でも腕無しさんがその血と棘だらけの義手で、器用に僕を受け止めて、抱き締めてくれたんだ。
腕無しさんはね、僕に積極的に触れてくれようとはしないんだ。あの大きな手で、ぐしゃぐしゃにしてしまいそうだからって。でもね、腕無しさんのハグはとても優しくて、落ち着いたんだ。

--- 2017.12.16 ---

残像領域に幾つも存在するジャンクヤードのうちの1つ。