ENo.0129　狛鶫ソラ

彼とマーケットに行った帰り、ボクは彼の手を握った。

自分から手を握るのは、その、すこし、だいぶ、けっこう恥ずかしかったけど……でも、握れてよかった。

恥ずかしかった勢いで、どうして握るのかを言った。
帰りはボクがキミを連れていくんだって。

その気持ちはほんとうだったけれど、でも、その後の言葉が言えなかった。


もう誰にも、何にも、キミを連れていかせたりなんてしない。


その不安を、ボクは心の中に押しとどめた。
それができたのは、キミのおかげなんだ。
今日がとっても楽しかったから、とどめることができたんだよ。
笑顔でいられたんだよ。

だから、ありがとっ。

Cafe ＆ Maintenance Mer-Millia

巨大樹木の中から、機械の大百足を探せば良い。
その樹の足元に、腕のいい整備士――あるいは料理人のいる店があるのだ。

カフェ＆メンテナンス『メル・ミリア』は、今日も密やかに営業を続けている。
禁忌戦争を生き抜き、霧とともに消えたとされたハイドラ大隊から戻ってきたと噂されている店主は、もはや多くを語らない。ただ、樹木に絡みつくように“眠っている”機械の大百足は、その時の店主のウォーハイドラだとされる。
時々たまに、思い出したように起き上がって、生きているかのように周りを歩き回るのだという。だから、この辺の木の根は金属の多脚にずたずたにされてしまって、あまり真っ当には育たないんだそうだ。店主はそう言って笑っていた。

今日のおすすめは、禁忌戦争で破壊されたと言われる要塞のひとつを模した店主手作りのケーキ。